22 犯人逮捕
───なぜこの女抵抗もせずに……?!
護送中の車の中で魔術封じの拘束具で雁字搦めになっている魔族の少女、シアンを睨みながら、アナシスは不気味に思った。
あの後、現場を離れアナシスは一部の部下にオスマン(偽物)を任せると、残りの部下を率いてシアンを探した。
以外にも魔族の少女はすぐに見つかった。
街中のカフェで天使の少女と二人でパフェをつついているシアンを見つけると、その場ですぐに拘束した。
───抵抗されて私たちが殺されれば、それはそれで彼女は王国筆頭軍だけでなく、王国そのもの、引いては国連にまで目を付けられるでしょう
そうすれば国連は最悪勇者を派遣せざるを得なくなるだろう。
なぜなら相手は、アークエンジェルズすら物ともしないディオスパイダーの群れを蹂躙した魔族なのだ。
最悪自分の命などどうなってもいい。
この魔族すら死ぬのなら。
自分は喜んでその礎となろう。
狂気にも似た圧倒的憎悪。
アナシスはこの魔族の少女が許せなかった。
自分の祖父母だけでなく、両親すら奪った魔族を。
幼いころから両親に魔族は敵だと教えられていたアナシスは、幼心に魔族を憎んでいた。
両親は大戦後、三界平等反対派の一員として過激な活動家たちと日夜抗議活動を共にしていた。
魔族は敵だ。
魔族は存在してはいけない者なのだ。
そう教え込まれていたアナシスが両親と共に抗議活動をするようになるのは、当然の事であった。
成人したアナシスは、両親の抗議活動を手伝いながらも王国筆頭軍に入隊した。
王国筆頭軍には自分と同じように魔族を恨んでいるものも大勢いるだろう。
両親も自分の就職に大層喜んでくれた。
しかし期待とは裏腹に、王国筆頭軍は思った以上に魔族に恨みを持つものが少なかった。
それどころか、先輩のオスマンを始め多くの人間が魔族、天界人との共存を夢見ていた。
───反吐が出る……
こんな腑抜けた王国筆頭軍ではいずれ魔族に蹂躙されてしまうだろう。
自分が王国筆頭軍を変えなければ……。
アナシスはその心に秘めた憎悪をエネルギーに着実に出世していった。
数年がたち、事件は起きた。
抗議活動を行っていたデモ隊が爆発事故に巻き込まれたのだ。
一人も生存者はいなかった。
しかもその爆破事故は老朽化した魔力玉庫がたまたまデモ隊の近くにあって何かをきっかけに引火したという。
犯人は特定できず、恐らく事故だろうと。
しかしアナシスはすぐに犯人が分かった。
魔族だ!
魔族が皆を!
お父さんとお母さんを殺したんだ!!
アナシスは必死に訴えた。
こんな無残なことをするのは魔族だけだと。
だが結局、王国筆頭軍は事件を事故と断定。
それ以上捜査が続けられることはなかった。
憎かった。
王国筆頭軍の無能さにも、両親を奪ってのうのうとまた悪事を繰り返しているだろう魔族にも。
悔しかった。
何もできない自分の無力さが。
そんな時だ。
あのお方が自分に声をかけて下さったのは。
「私も魔族を恨んでいます。だから貴女の無念もわかりますわ」
そう言って優しく抱きしめてくれたあのお方。
泣きじゃくる自分を優しくあやしてくださったあのお方に、真の聖母を感じた。
「私は今、仲間たちと共に三界の在り方を変えるため戦っています。貴女も一緒に戦ってくださいますわね?」
そう言って手を差し出してくれたあのお方を見て、初めて自分にとって仲間が出来たことを感じた。
そうか、自分はこのお方のために、このお方の力になるために生まれてきたのだ。
彼女に妄信するのに時間はかからなかった。
口調すら真似、彼女の為に尽くす毎日。
革命軍『ル・ルシエ』こそ、この世界の在り方を真に正すものなのだ。
そんな充実した日々を過ごしていたある日、ディオスパイダー作戦が実行された。
革命軍八人の指導者の一人カイン・アルベルドが計画していたブルリカ陥落計画。
ブルリカからの救援要請が王国筆頭軍に届いたとき、アナシスは心の奥底から喜びを感じた。
直ぐに長官を説得し、自分達3番隊の出動を要請した。
そして意気揚々と飛竜に乗り、空中を移動している時あのお方からの連絡が入った。
「同志、カイン・アルベルドが失意のうちに死去されました……」
魔術通信装置越しに聞こえる彼女の涙声。
信じられなった。
革命軍の中でもの随一の魔術の使い手であり、指導者として皆を引っ張っていたカインが殺されるなど。
カインを殺したのはディオスパイダーの計画すら打ち破った魔族の少女だという。
数年前から計画されていた大規模な革命計画に心を躍らせていたアナシスは、その失敗と指導者の死去に心の奥底から憎悪が沸き起こる。
やはり魔族は生かしては置けない。
本来ならば、計画成功をこの目で確認するためのブルリカへの救援が、計画失敗を目のあたりにするための失意の移動となった。
★
アナシスは目の前の魔族の少女を睨む。
以外にも抵抗の素振りすら見せずに簡単に拘束された魔族の少女。
傍にいた天使の方が煩わしかったぐらいだ。
見た目からは想像もできないような圧倒的な邪悪な存在。
魔術封じの拘束具によって彼女は魔力も発することは出来なはずだ。
魔族にとって魔力は生命線。
それを封じられているというのに、シアンはまったく焦る様子すらない。
不気味に思いシアンに問いかける。
「随分と落ち着いていますのね?わかっていますの?自分がいまからどうなるのかを」
するとシアンは気だるげにアナシスを見た。
「貴女は今から首都に連れていかれて、そこで裁かれるでしょう。あれだけの事を起こしたのだもの。
貴女は良くて終身刑。悪くて打ち首ですわよ?」
脅すように言ったのにシアンはまるで興味なさそうにアナシスから目を外した。
───気に入らない……それに不気味ですわ……
「そもそもどうして簡単に捕まったんですの?!貴女なら私たちをあの場で皆殺しにして逃げることも出来たでしょう?!」
そう言って問い詰めるとシアンはまた興味がない瞳でアナシスを見た。
そして……嗤った。
「……この!!」
咄嗟に手が出てしまった。
思いっきりシアンを殴る。
「副隊長!!」
部下に諫められ、ハッと自分が手を出してしまったことに気づく。
「彼女はまだ容疑者です。犯人と決まったわけではない」
「わかって……いますわ……っ!!」
瞬間背筋も凍るような殺意を感じた。
殴られたシアンはやはり興味がない瞳でアナシスを見ていた。
しかしアナシスは視た。
シアンの瞳の奥の殺意を。
その殺意を感じ取った瞬間、アナシスはズタズタに引き裂かれたような感覚に陥る。
シアンは決して動いていない。
だが
「ひいいいいいい……??!!」
それだけでアナシスは失禁し、その場で気絶した。




