21 恋の力
「もし俺がここで帰ったら、次の移転人はすぐに呼べるんですか?」
そう言って真剣な眼差しで此方を見てくる佐藤勝利を見て、ケタロスは居たたまれない気持ちになっていた。
この世界の都合で勝手に呼び出されて、魔界でも人間界でも大変な目に合ったはずだ。
正直な所、彼のような少年にこれ以上の無理を強いるのは気が引けた。
見れば普通の少年だ。
いままで荒事などに巻き込まれたことも、死ぬような目に合った経験もないだろう。
ここで無理な正義感や、金塊の誘惑に負けて再封印を受けたら彼は間違えなく後悔するし、自分も後悔することになるだろう。
かと言って聞かれたことに嘘をつくのもまた気が引けた。
と言うのも、別の世界から人間を呼び出すにはそれなりのエネルギーが必要なのだ。
覗き見だけならばたいした力はいらないが、実際に全く別の世界から人間を連れてくるとなると話は別だ。
転送装置のエネルギーは彼を元の世界に送り届ける分で無くなってしまうだろう。
そうすると再度人間を移転させるには最低でも1年。下手をすればそれ以上かかる。
───さて、なんて答えようかな……
しかし沈黙したケタロスを見て彼の中で答えは出たのだろう。
「やっぱりすぐには連れてこれないんですよね」
「……まぁ……ね」
「だったら……」
「ストップだ」
佐藤勝利が答えを出すのをケタロスは止める。
「君が今から言おうとしている答えは、本当に後悔のない答えなのかい?」
ケタロスは真剣な眼差しで佐藤勝利を見た。
「下手な正義感や、同情で答えるつもりなら、考え直したまえ」
「……」
「君は未来ある少年だ。別の世界の出来事で君の未来を潰すことになってほしくはない」
「……それでも俺はやります」
「……なぜだ?」
ケタロスはなおも真剣な眼差しで佐藤勝利を見つめながら聞いた。
「君は馬鹿ではないと思う。邪神の封印をやると決めたらなら、本当に命を狙われることになることも理解してるだろう。だというのに、なぜ別の世界の為に命まで賭ける?」
「……俺は、目の前で大変な思いをしてる人達がいるなら手をのばしたい」
「……はぁ」
ため息が出る。
青い答えだ。
そんな正義感で自らの命を懸けるなど、若気の至りでしかない。
───やはり無理やりにでも彼は元の世界に帰すべきだな
ケタロスの中でも答えは決まった。
「それに……」
「それに?」
もはやこれ以上の問答は無駄だろう。
家族にはよく甘いと言われるが、やはり三界の安定の為とはいえ、彼のような若く未来ある少年の命まで使って自分たちの世界を守ろうとは思わない。
彼には金塊を渡して、そのまま元の世界に帰ってもらおう。
「邪神が爆発するといずれは魔界にまで影響が及ぶんですよね」
「……ん?」
「俺は……シアンに大変な目にあってほしくない」
「……!!」
シアン?シアンと言うと確か例の魔族の少女だろうか?
ディオスパイダーを蹂躙したという怪物少女。
なぜ今その名前が……?
そこまで考えてケタロスの頭の中でガチっとピースがはまった。
「ふ……ふふ……ふふぁあははははははは!!」
「え?ケタロスさん?」
「そうか!そうだな!!それは困るよな!!」
「え……ええ?」
「ふははははははははぁ!!」
突然爆笑し始めたケタロスに佐藤勝利だけでなく、周りの天使たちも戸惑う。
───俺は彼を勘違いしていたようだ!
確かに彼は正義感が強い男なのだろう。
困っている人を見てほおってはおけないのも事実だろう。
だがそんなことよりも
───好きな女の子のために命を張る少年は大好きだ!!
この瞬間ケタロスの佐藤勝利への好感度は爆上がりであった。
正義感や義務感で命を張る男よりも、惚れた女の為に命を張る男の方がケタロスは好きなのだ。
───愛は世界を救うと言うけど、彼ならばきっと大丈夫だろう!!
何の根拠もない答えを得て、ケタロスは決心する。
彼にこの世界の未来を託してみようと。
「わかった!勝利君!君に邪神再封印を託す!!」
「え?!」
「いろいろ混乱させてすまなかった。だが改めてお願いさせてくれ」
「ケタロスさん」
そう言ってケタロスは立ち上がり、佐藤勝利に頭を下げた。
「どうか邪神を再度封印しこの世界を救ってくれ!」
深く頭を下げるケタロスに、佐藤勝利もまた立ち上がり、深く頷いた。
「はい……!」
「………グス」
そんな二人を見ていたスワンナは感動で涙を流していた。
なんて素晴らしい少年なのだろうか!
これから彼に降りかかる悪意も理解した上で、それでも彼は正義と愛の為に立ち向かうというのだ!
魔族の少女と人間の少年。
本来なら相容れない二人だが、彼らはそんなこと関係なしに大きな愛で繋がっている!
これこそスワンナが望むこれからの三界の在り方だ!
───彼は、いえ彼らは私たちが必ず守るわ!
周りを見れば、他のアークエンジェルズ達も感動で涙を流している。
図らずとも佐藤勝利はその青臭い正義感と、心にある淡い恋心のお陰でケタロス及びアークエンジェルズたちの心を掴んだのである。
先ほどまでのピリピリとした雰囲気が一気に晴れ、穏やかな空間が広がる。
「さて、では改めてこれからの事を説明して
ケタロスが佐藤勝利にこれからのやるべきことを説明しようとした時、突如慌ただしくドアが開かれた。
「お話し中、申し訳ありません!!」
息を荒げて入ってきたのは、アーシュリであった。
「あなた……」
「小言はあとで!!それよりも報告がございます!!」
一同が彼女に集中するなか、彼女は口を開いた。
「王国筆頭軍3番隊隊長が負傷!現在病院で療養中ですが、意識が戻っていないそうです!!それと大勢の市民が広場で氷漬けになって殺害されていました!!」
「……!!」
「王国筆頭軍はその容疑者として、シアンさんを拘束!!現在王都デポカに護送中です!!」
「シアン……!!」
こうして事態は急転するのであった。




