閑話1 シアンの裏話
「ねぇシア!今度父様の誕生日、みんなでそれぞれプレゼント渡さない?」
「は……?」
久々に訪ねてきた姉妹が唐突に訳の分からないことを言ってきた。
「プレゼントはそれぞれ自分で稼いだお金で、人間界のプレゼント買うってルールね?」
こちらを無視して話を続ける姉妹の名前はクリム。
淡いピンク色の髪をフワフワと揺らしながら楽し気に話している。
自分とは腹違いの姉だ。
いつも突拍子もない事を言っては此方を困らせる姉だが今回は群を抜いて訳が分からない。
そもそもなぜ自分があの男にプレゼントなど渡さなければいけないのか。
誕生日を祝う気などまったくないというのに。
「期間はいまから三か月後の父様の誕生日!プレゼントを買って父様にどれが一番良かったかを選んでもらう!」
「……いや……やりませんよ?」
「ぼくはもうプレゼント決めてるけど今からお金を稼がなきゃなー」
「聞いてください……」
「あ……!人間界に行って体を売るとかはだめだよ?手っ取り早いけど父様に知られたら人間界ほろんじゃう」
めんどくさいね?っと問いかけるクリムに頭が痛くなってきた。
「だから!やりませんよ?そんな面倒なこと」
「えー、シアってば負けるのが怖いんだ?」
「……は?」
くふふっと笑いながらクリムは続ける。
「まぁいいよ?ならシアは不参加で」
「でも他のみんなが参加しちゃったらシアだけ不戦敗だね?戦わずして負け犬だね?」
「へぇ……、相変わらず挑発がうまいですね……クリム……!」
わかりましたよっと言って挑発を買ってしまう。
「三か月後を楽しみにしててください。必ず私が勝ちます」
「そうこなくっちゃ!」
クリムは楽しそうに笑いながら続ける。
「じゃあ三ヵ月後の父様の誕生日会!楽しみにしてるよ!」
「わかりました……って……あ!」
「よし!父様の誕生日会シアも出席っと!」
いやー今年の幹事まかされて大変なんだよね!っとクリムは笑いながら言った。
完全にはめられた……!
自分の愚かさを呪うがもはや後戻りはできない。
「くぅ……わかりました……!」
「あはは!シアってばそんな怒んないでよ」
なおも笑いながらクリムは続ける。
「こうでもしなきゃみんな誕生日会にきてくれないんだもん」
幹事って大変なんだよ!っと笑うクリムに毒気が抜かれた。
まぁ仕方がない。けんかを買ってしまった以上それを投げ出すのは主義に反する。
「とろこで……クリムのプレゼントの予算はいくらぐらいなんですか?」
「んーっとぼくは大体6万バルぐらいのプレゼントにする予定かなー?」
───だとすると最低でも5~6万バルほどのプレゼントか……
プレゼントは値段ではないとは言うがクリムのプレゼントよりあんまりにも安価ではなんだか負けた気がしてしまう。
「お?シアってばやる気十分だね?」
そう言ってクリムは笑みを絶やさないまま続けた。
「さっきも言ったけど三ヵ月後の父様の誕生日会!楽しみにしてるよ!」
★
その後しばらく談笑したのちクリムは去っていった。
正直気が乗らないが、受けてしまった勝負を投げ出すわけにもいかない。
クリムがわざわざ稼いだ金と言ったのは、魔界では金を使うこと自体少ないため、稼ぐ必要があるためだろう。
他の姉妹たちはどうなのか知らないが、シアンは手持ちで金を持ってはいなかった。
───面倒です……
どこかその辺に大金でも落ちていないだろうか。
そう思いながらボトルの散歩をしていると、突然ボトルが駆け出した。
なにかおもちゃでも見つけたのだろうか?
そう思いながらゆっくりとボトルを追うと、ぐちゃぐちゃにつぶれたゴブリンと今にもそのゴブリンの後を追うであろう人間がいた。
その人間、見ればそこそこの身なりの服を着ている気がする。
「ボトル、もういいですよ」
ボトルを落ち着かせ、人間を見ると、彼と目が合った気がした。
「お疲れ様です」
彼に言ったのか、ボトルに言ったのか。
自身でも分からない言葉を投げかけると、彼はそのまま気絶してしまった。
ここは氷の谷からは離れているとはいえ、人間には極寒には変わりない。
ここにこのまま放置していれば、ものの数分で死体の出来上がりだ。
ふと見るとその人間はどうやら失禁しているようで、その尿も今は凍ってしまっている。
「ボトル、彼を私の家に運んでください」
「ぐるる!?」
まさかの主人の言葉に驚くボトルだが、若干嫌そうな顔をしたのち、すぐに人間を咥えてシアンの家に運び始めた。
ボトルに運ばれる人間を見ながらシアンはこれが自分にとって幸運なのか、それもとただの面倒ごとなのかと考えていた。
「あ……ボトルあんまり強くかまないでください」
「ぐるる……」
ボトルにとっては甘噛み程度であろうが、人間にとっては脅威だろう。
現に最初にボトルが咥えた時に右腕が落ちてしまった。
───まあ、治すからいいか……
シアンはそう考えながら、もし家に着いたとき死んでいれば、死んでいたときかと考えていた。
彼女はこの時は思ってもみなかった。
この人間がまさか自身の感情を揺さぶる存在になろうとは、この時のシアンはまだ知る由はなかった。




