11 綺麗な夕日
「綺麗だ……」
俺の口から勝手に漏れた声に、隣にいるアーシュリがぎょっとした。
正直シアンを目で追う事なんで全然できなかったし、彼女の舞も分からなかった。
でも目を覆うような勢いの竜巻が消えたその中心で、剣をキャッチしクルリッと一周舞った彼女を視て、俺は本当にそう思った。
「あんた……まだ魅了かけられてんの……?」
訝しげに聞いてくるアーシュリを無視して俺はシアンの元へ向かった。
「シアン……」
するとシアンは俺に向かって微笑んで問いかけた。
「ふふ……ショーリさん。視ていましたか?私の舞」
「ああ……ええっと」
「どうでした?人の為に舞うのは初めてでしたが……」
「綺麗だった」
「……え?」
俺の答えが予想外だったのだろうか、彼女は虚を突かれたように驚いた。
「えーっと、綺麗だったよ……舞……」
もう一度言うのは結構恥ずかしいが、彼女は自分の為に舞ってくれたと言ったのだ。
これを誤魔化したりすれば彼女に失礼な気がした。
「ふふ……あははははは」
すると突然シアンは笑い始めた。
「ええ?俺おかしなこと言った?」
困惑しているとシアンはお腹を抱えて笑い始めた。
「い……いえ……ふふ……すみません……でも」
「ショーリさんはやっぱり面白いですね」
笑って涙すら見せるシアンはそう言って俺に笑いかけた。
正直心臓が鳴りやまなくてめちゃくちゃ困る。
これも魅了のせいなのだろうか?
それとも……
「君が助けてくれたんだな……」
俺がシアンの笑顔に引き込まれていると突然後ろから男がシアンに話かけた。
この人さっきアーシュリと一緒にいた人だ。
「おれはジーク。この街の冒険者だ」
そう言ってジークさんはシアンに深いお辞儀をした。
「俺たちの街を救ってくれてありがとう」
「……」
お礼を言うジークを横目にアーシュリが口を開いた。
「……私からもお礼を言わせてください。……助けて下さって本当にありがとうございます」
そして顔を下げシアンに続ける。
「貴方が私や皆を治してくださったおかげで、他のアークエンジェルの皆も無事でした」
「それだけじゃない。市民や警備隊や冒険者たちもみんな無事だ!」
そして間をおいてジークさんがシアンに問いかけた。
「君は……いったい何者だ?」
「その確認に一体なんの意味があるんですか?」
しかしシアンは興味がなさそうに答えた。
先ほどまで楽し気だった雰囲気はすでになく、いつものように興味を示さない瞳でジークさんを見ている。
「……いや……悪い。無粋だったな」
ジークさんは改めてシアンに謝るとそこから妙な沈黙が流れた。
「ジーク!!」
いたたまれない沈黙に口を開こうとしたとき、空からジークさんに誰かが飛び込んできた。
「スー!!」
飛び込んできた天使をしっかり抱きしめるジークさん。
二人は少しの間抱き合ってお互いの無事を喜んだ。
「ジーク……あなたが無事でよかった……」
「スー!もうだめかと思ってたんだぜ……!」
感極まった二人はそのまま長い口づけをした。
うわー。まじかー。
正直恋人同士であろう二人がキスをするのは仕方がないと思うが、TPOをわきまえてほしい。
具体的に言うと未成年には刺激が強いのだ。
もっと言うと年齢=彼女無しの男子には特にだ。
「ススススススワンナァ!!!?なにしてんのお!!!?」
突然アーシュリが大声を上げた。
とするとこのスーという人(天使)がアーシュリの友達なのかな。
完全に部外者と化した俺は呑気にそんなことを考えていた。
「ア……アーシュリ……あ……あなたどうしてここに?」
「そっんなことはどうでもいいでしょ!!?あんた人間なんかと恋愛してんじゃないでしょうね!!?」
「人間なんかって、貴女なんてこと言うの!?ご当主様は人間も天使も分け隔てなく愛しなさいっていつも言われているでしょ!」
「それは隣人を愛せって意味でしょーが!!愛し合えって意味じゃねぇのよ!!」
「そもそも貴女の仕事はどうしたの!?移転人様を天界にお連れするのが貴女の今回の仕事のはずでしょう!?」
「……う!!」
「それにジルドさんはどうしたの!?」
「……うう!!」
お?スワンナって人(天使)がちょっと優勢になってきたな。
完全に話のすり替えをしているけど、アーシュリにとって痛い所をついてくる。
「まあまあ落ち着けって二人とも」
ジークさんが仲裁に入る。
「とりあえずまずは皆で警備隊長と市長の所に行こう」
話はそれからだな!っとジークさんが話をまとめると、シアンはあからさまに面倒そうな顔をした。
というか話の発端はスワンナさんとジークさんの熱い口づけなのだが、まるでジークさんは他人事だな。
「君たちもきてくれるだろ?」
そして俺たちに話しかけた。
結局、俺はなにもしていないとは言え正直疲れた。
思い出したように腹も減ってきた。
ふと空を見ると夕焼けが見える。
今は夕方なのか……。
そして隣に目をやると夕日に照らされるシアンがいる。
この世界に連れてこられてろくな目に合っていないのに、夕日に照らされた彼女の横顔を見ているだけで、なんだがそれも悪くなく思えてしまう。
俺の視線に気が付いたのかシアンが俺を見る。
いまでも彼女は俺の事をどうでもいい人と思っているのだろうか?
そんなことを考えていると彼女はふっと微笑んだ。
「では行きましょうか?ショーリさん」
そう言って微笑んだ彼女は夕日に照らされてとても綺麗だった。




