10 独活の大木
───遅い、脆い、つまらない
シアンは蜘蛛たちを切り刻みながら何回目かのため息をついた。
蜘蛛たちは図体だけ大きいだけの独活の大木だ。
適当に剣を振るえば蜘蛛たちはバラバラになっていき、反応も鈍い蜘蛛たちは自分たちが殺されたことにすら気付かない。
蜘蛛たちに餌として捕らえられた人間、天使たちを蜘蛛の糸から解放し適当に治しながら、さっきの天使はどれなのかと探してみても、よく考えたら顔を覚えていない。
ふと、悪意のある視線を感じたのでとりあえず剣を投てきしておく。
すると悪意の視線の主は姿を消したようだ。
───一応手ごたえはありましたが……
取り合えず姿を消したのならば、もはやこの場では関係ないだろう。
戻ってきた剣をキャッチしつつ、シアンは思考を切り替え蜘蛛を切り鯖いでいく。
───遅い、脆い、つまらない
氷の谷の踊り子にとって戦闘とは、舞とは、神聖なものなのだと、この世にはもういない母親に教わった。
戦闘中にその他の事を考えるなど言語両断、どんなに弱い相手にも敬意を払うこと、っと。
くだらないことだ、っとシアンは思う。
自身が楽しめない戦闘に何の意味があるのか。
だからこそ戦闘中であるにもかかわらず全く違い事を考えてしまう。
佐藤勝利。
別の次元から連れてこられた移転人。
お金が必要な時に現れた変な人。
ゴブリン程度に失禁して、ボトルぐらいの魔物に縮こまる弱い人間。
だというのにさっきは何だったのだろうか。
震える膝に鞭打って、死ぬと分かっている戦場に駆け出そうとして、そして……
───でも目の前で大変な思いをしてる人達がいるなら俺は手をのばしたい───
「ふふ……」
思い出しただけでも笑えてしまう。
なんて情けない決め顔だろうか。
いつものシアンなら一笑に付していただろう。
しかしなぜだろうか。あの情けない顔が妙にツボにハマった。
たったそれだけの事なのに……初めてシアンは人に演舞を披露してもいいと思えるほどに感情を動かされていた。
───変なひと、弱いひと、でも……面白いひと
披露すると決めた以上適当にやるのは主義に反する。
本来ならこの程度の雑魚相手に舞を舞うまでもないが、ここはひとつ彼の為に舞うとしよう。
「雹演舞3節……氷纏い」
両手の剣を回転を加えて投げ、自身の周りを躍らせる。
自身を中心に剣は回転し始め、音速を超える超音速となり、冷気と魔力を開放しながら巨大な竜巻へと成長する。
竜巻の中心で舞うシアンに追従するように剣たちも更に速度を速めていく。
もはや何人たりとも近づけない氷の竜巻にディオスパイダーたちは成すすべもなく切り刻まれていく。
一応舞う前に、この辺りにもう餌(捕まってる人達)がいないことを確認したシアンは容赦なく、ディオスパイダーたちを殲滅していった。
───ショーリさんは視ているでしょうか?
粉みじんに粉砕されて、氷の結晶の一部となっていく蜘蛛を横目に、シアンは佐藤勝利を想った。
★
ディオスパイダーの群れの長、ディオスパイダーマザーは目の前で無残にも殺されていく息子たちを見て、怒りのボルテージは最高潮であった。
数年前、妙な餌を食べてから急成長したマザーはこの数年で一気に群れを拡大させた。
そして彼女の群れは絶対無敵の大軍として、魔界を謳歌していた。
突然発生した空間の裂け目の先に極上の餌があることを感じ取ったマザーは、すぐさま群れを率いて進軍を開始した。
負ける気などなく、事実ついさっきまでもうすこしでこの巣を完全に落とし、食事にありつけるはずであった。
しかし、いきなり現れた部外者に彼女の群れは壊滅寸前に追いやられていた。
───許さない………!
───あの獲物だけは私の獲物だ!
───今すぐこの場で八つ裂きにして無残に食い荒らしてやる!
ディオスパイダーマザーの怒りで湯気のように立ち込める殺意と魔力。
そして謎の殺戮者を目線に捕らえ、一気に片をつけるをつけると全身に力を込めた刹那、確かに聞いた。
「雹演舞3節……氷纏い」
そのつぶやきと共に発生した氷の竜巻にディオスパイダーマザーと残りの息子たちはなすすべもなく飲み込まれていく。
一瞬で切り刻まれていく刹那、殺戮者と目が合った気がした。
8つの目が捕らえた殺戮者は、殺していく自分をまるで興味がないように横目で捕らえて、視線を外した。
───絶対に許さない……!
ディオスパイダーマザーは殺意と怨念で、殺戮者を呪い殺すために最後の魔力を籠めた。
しかし残念ながら氷の谷の踊り子の舞は魔力や魂までも氷憑かせる。
最後の抵抗も空しく、ディオスパイダーマザーは魂ごと氷の竜巻に粉砕されていった。
結局最後までシアンはこの蜘蛛の群れの長がどれなのかも興味がないまま、ディオスパイダーの群れを殲滅した。




