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1 異世界移転

体が凍える様に寒い。

辺り一帯白一色の景色に、俺の体は凍えていた。


吐く息も白く息をするだけで喉の奥まで凍ってしまいそうだ。


───ここは一体何処なんだよ……


何度心の中で自問しようとも当然答えは出ない。


何故俺がこんな状況に置かれているかと言うと、時間を少し遡ることになる。



「明日から夏休みだが、羽目を外しすぎないように!」


担任の杉本先生の一言でホームルームが終わる。

待ちに待った夏休みだ。

高校に入って初めての夏休みなので、何をするかを考えていると杉本先生が俺の席に来た。


「佐藤!今から職員室に来るように!」

「ええっ、あ、はい……」


突然声をかけられたことに驚いていると杉本先生は言いたいことだけ言って教室を出ていった。

一体何なんだ?そんなことを思っていると隣の席の三谷が話しかけてきた。


「何かやったのか?」

「いや、身に覚えがない」


すると三谷は笑いながら言った。


「また人助けしてて遅刻したからその事への小言じゃね?」

「……む」

「まあ行ってみればわかんだろ」

「はあ……そうだな」


俺はため息をつきつつ、杉本先生の後を追おうと教室を出た瞬間、周りが暗転した。

一瞬の暗転のあと辺りを見渡すとそこは廊下ではなかった。


「ここはどこだ?」


周りは薄暗く、よく見えないが石で出来た壁や床が見えるので洞窟かなにかだろうか。


しかし何故俺はこんなところにいるのだろうか。

確かホームルームが終わったあと、杉本先生に呼ばれて・・・それからの記憶がない。

ということは、誰かにここに連れてこられたのか? 誰が何のために?と考えていると後ろから物音が聞こえた。


俺は咄嗟に振り返るが何もいない。

しかし何かがいる気配がある。

おれはスマホのライトをつけ辺りを見回した。

すると


「グギャギャ」


という声と共に緑色の小人が三匹現れた。

俺は突然現れた小人に驚き、尻餅をつく。

そんな俺を見た小人は、ニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべている。


「だ、誰だ!」


俺がそう言うと小人の一人が俺に向かって何かを投げてきた。

俺は咄嗟に腕で顔を庇うが、腕に衝撃はなく恐る恐る腕を下ろすとそこには、石でできたナイフが刺さっていた。

そして投げられた方を見ると、小人が次は石でできた斧を投げてきた。


「ひっ」


俺は咄嗟に横に転がり避けるが、斧はさっきまで俺いた場所の壁に突き刺さっている。

あれが当たっていたらと想像すると背筋が凍る。


「ひぃぃ」


おれは震える足に鞭打って立ち上がり、一目散に逃げる。

そして少し走ったところで俺は後ろを見るが追ってくる気配はない。


「はぁはぁ」


俺は息を整えて、もう一度周りを見渡す。すると俺がいる場所は洞窟のような場所だった。

しかし洞窟の中は薄暗くよく見えないので、スマホで辺りを照らした。

すると俺の後ろには道があり、その道の先は光が見える。


「とりあえず、あの光に向かって歩くか」


俺はそう言って道なりに歩き出した。そしてしばらく歩くと、俺は出口についた。


「寒……!!!」


洞窟を出るとそこにはあたり一面雪景色の森がひろがっていた。


「うぐ……!」


息を吸うと肺まで凍ってしまいそうな寒さに、咄嗟に口元を抑える。

悴む手でスマホを操作し、現在地を調べようとするがスマホに現在地が表示されることはなかった。


「ここどこなんだよ?!」


そして冒頭に戻る。



俺はあまりの寒さに、その場に座り込む。


「はぁはぁ」


そんな俺の息も白く染まっている。

夏休み直前の俺の服は当然夏服である、その恰好のまま洞窟の外に出ても凍え死んでしまう。

洞窟の中へ戻るべきか……。


「グギャギャ」


どうするべきか迷っていると、洞窟の奥から俺を追ってきたのか緑色の小人が三匹出てきた。

小人は、俺を見つけるとニタニタと笑みを浮かべながらこちらに迫ってくる。


「くそっ!なんでこっちに来るんだよ!」


俺は立ち上がり、まだうまく動かせない足を動かしながら走る。

しかし雪に足を取られ思うように走れず、小人との距離が徐々に縮まる。

そしてとうとう追いつかれてしまった。


「グギャ」


小人は俺の足を斧で斬りつけてきた。


「ぐうっ!」


俺は痛みに耐えられずその場に膝をつく。

すると今度は石でできたナイフを振りかぶり、俺にそのナイフを突き立てようとした。


───もうだめだ……!


このあと起こる最悪の出来事を予感して目を瞑った。

しかし、いくら待っても痛みはやってこない。

俺は恐る恐る目を開けると、小人はナイフを振りかざしたまま怯えたように硬直していた。

よく見ると小人たちは俺ではなく俺の後ろを凝視して固まったいる。


「な……なんだ……?」


俺も恐る恐る後ろを振り返る。

するとそこには、5メートルは超えるであろ巨体の怪物がいた。

熊を思わせる大きな体に鎧を纏い、手には棘がついた巨大な棍棒を持っている。


「う……うわぁああ!」


俺はあまりの恐怖に叫び声をあげる。

しかし怪物は俺に見向きもせず、小人に襲いかかると手に持った棍棒を小人に振り下ろした。


「グギャ」


棍棒を叩きつけられた小人はその場で絶命し、他の二匹は一目散に逃げだした。

その逃げる小人を巨大な怪物は追いかけまわし、棍棒で滅多打ちにする。

そして三匹の小人を全て殺すと今度は俺のほうへ振り返り近づいてきた。


「はっ……ひっ!」


俺は腰が抜けてしまいその場から動けない。


───今度こそもうだめだ……。


怪物はゆっくりと、獲物を見定めるように俺を見据える。

そして棍棒をゆっくりと振り上げた。


「うわっ!」


俺は咄嗟に腕で頭を守るが、もはや何の意味もなさないだろう。

今度こそ死を覚悟して硬く目を瞑る。


「ボトル、もういいですよ」


この場にはあまりにも場違いな、鈴を転がすような声が聞こえた。


目を開くと森の奥から一人の少女が歩いてきた。

その少女の美しさに思わず見とれてしまう。


肩口で切りそろえられた青く輝く髪に透き通るような白い肌、そしてそれを彩る和風の衣装。

そしてアメジストブルーの瞳。


今の状況も忘れて少女に見とれていると、怪物は少女のほうを向きゆっくりと少女の下へ歩みよる。


「お疲れ様です」


少女は怪物に礼を言うと、ゆっくりと怪物の頭を撫でる。

その光景を眺めつつ、俺はそのまま意識を手放した。

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