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その中

作者: 斉藤りた

しんどい日々が、何か変わるかなって思っただけなんだ。

タツヤより短距離のタイム遅いって馬鹿にされてるのに部長は辞められないし。

いい加減志望校決めろって先生はうるさいし。

コーチはこのままじゃどこからも推薦貰えないぞって脅してくるし。

母さんは父さんと離婚したらどっちに着いてく?なんて言うし。

もう何も考えたくないし、全部誰かに決めて欲しかったんだ。

だから、自習中にツネのスマホでシゲと見た動画のやつ、やってみたらネタにして笑えるかなって思っただけなんだ。

鏡にさ、バスタオル広げて横から覗くなんて、誰でもやってるじゃん。だから、大して怖くもなかったし。

でも、覗いた時の鏡に映った俺の顔が気持ち悪く笑って、鏡から腕が出て来て引っ張られて、気が付いたら薄暗い俺の部屋。

目の前の、鏡の中はいつもの明るい俺の部屋。

鏡には、いつも通り俺が映ってる。でも。

鏡の中の俺が右手を挙げると、俺の左手が上がる。

鏡の中の俺が笑うと、俺の口端も上がる。

「あ」コイツが喋ると「あ」俺の声も出る。

「やっと好きに動けるぜ」「やっと好きに動けるぜ」?

コイツが鏡に映らない場所に歩いて行くが、俺の身体は決められているように勝手に動いている。

たまに洗面所なんかで目が合うと、ニヤリと笑うせいで俺の顔も勝手にニヤリと笑う。

もしかして、コイツが鏡の中でしていた事を、これから俺がするのか?ずっと?死ぬまで?

生まれて初めて背中がゾッとした。

でもさ、思ったんだ。キッチンのレンジに映るアイツがニコニコしながら母さんと父さんに話しかけるから。二人ともいつもより楽しそうなんだよ。

だから。あれ、このままでもいいんじゃね?もう、俺は何も考えなくていいし、決めなくていいんだ、それってめっちゃ楽じゃね?って思ったんだ。

それからは、俺が俺である事を思い出す時間もあんまり無くなってきた気がする。

今は覚えてるけど、多分明日にはまた忘れてる。

だから、もしお前がこっちに来ても、大丈夫だよ。

すぐに、楽になるから・・・

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