【異世界でキャッシュレス?冒険者ギルド登録へ】
バルゼンの中心部にある冒険者ギルドの建物は、立派な石造りの二階建てだった。
頑丈な木製の扉の上には「バルゼン冒険者ギルド」と刻まれた看板が掲げられ、ギルドの紋章である二本の剣が交差するデザインが象徴的に刻まれている。
扉を開けると、広いホールには長椅子とテーブルが並び、酒を片手に依頼を話し合う冒険者たちの声が飛び交い活気に満ちている。
「賑わってますね……。」
龍華が周囲を警戒しつつ小声で言った。
さすがに冒険者が集まる場所だけあって、筋骨隆々の戦士や、フードを深く被った魔法使い、弓を背負った狩人など、多種多様な人物がひしめいていた。
奥には掲示板があり、無数の依頼書が張り出されていた。
二人はどのような依頼があるのか気になり掲示板の前まで進む。
依頼書には対応ランクを示しているであろう「C」や「F」などのアルファベットと、「盗賊討伐」や「魔物の群れ撃退」といった依頼達成目標、そして「銀貨100枚」や「金貨2枚」など達成報酬が書かれていた。
悠真は掲示板を眺めながら言う。
「依頼内容から、この街の情勢や需要がある程度推測できるな」
「そうですね、物流や商取引に関する依頼もあるようですし」
龍華は納品や配達など商取引に関係の依頼をチェックしているようだ。
掲示板に一通り目を通したらカウンターへと足を運ぶ。
すると、一人の女性が二人に気づき、微笑みながら声をかけてきた。
「いらっしゃいませ、私はリディア・フェルナー。このギルドで受付を担当しております。以後、お見知りおきください。」
彼女は落ち着いた茶色の瞳と知的で洗練された雰囲気を漂わせ、上品なブラウスとベストに身を包み、肩にはギルドの紋章が刺繍されている。
「ギルドへの登録をご希望ですか?」
「ええ、冒険者登録をしたいのですが」
悠真が答えると、リディアは手際よく書類を取り出し、丁寧に説明を始めた。
「ギルドにはEランクからSランクまでの階級があり、初めて登録される方はEランクからスタートとなります。魔物討伐、護衛任務、素材収集など、さまざまな依頼を受けることができます。ランクが上がれば、より難易度の高い依頼も請け負えますので、ご了承ください。」
龍華は悠真にしか聞こえない程度の小声で、
「なるほど、ビジネスのスキームと似ていますね。」と呟く。
リディアはさらに、
「また、依頼の遂行率、報酬の受取履歴、信頼度の記録なども管理されています。ギルド内で問題があればペナルティが課されることもございますので、ご注意ください。」
と続けた。
説明が終わるとリディアは端末のような石板を取り出し二人の前に置いた。
「それでは、この石板に触れていただけますか?この石板には魔法が込められていますので、触れるだけで、あなたたちの基本情報をギルドカードに登録することができます。」
悠真と龍華はそれぞれの前に置かれた石板に手を伸ばす。
「まさか(異世界人)とか出力されないだろうな・・・」悠真は小声でつぶやいた。
石板に触れるとぼんやりと光始め、やがて光がおさまるとリディアが口を開いた
「ナガレ・ユーマ様と、サクライ・リューカ様ですね」
「はい、カードが出来上がりましたよ」
リディアがギルドカードを手渡してきた。
二人はリディアからギルドカードを受け取ると悠真はカードを見ながら、「このギルドカード、ただの身分証明書以上の機能がありそうだな。」と呟く。
「はい。お名前などの登録情報以外にも、依頼履歴や所持金の一部を管理する機能に加え、魔力を流し込むと現在のランクや受注可能なクエスト情報が表示されます。」
「ほう……この世界にもキャッシュレスに近いシステムがあるとはな。」とリディアには聞こえない声でつぶやいた。
それを聞いていた龍華も
「なかなか便利ですね。」と小声でつぶやいた。
リディアは別の石板を用意して二人の前に置きながら会話を続ける。
「これでギルドの登録は終了です。早速ですが、カードにお金をチャージしていかれますか?」
せっかくなので、悠真はカードについていろいろと情報を仕入れておこうと質問をする
「街中での支払いはカードだけで全部できるのか?」
「露店などでは対応していない店舗もありますが、宿屋や道具屋など店舗を構えている所では利用が可能です。」
「それは便利そうだな、万が一カードを失くした場合はどうすればいい?」
「そうですね、その場合は5リオンで再発行が可能です、だけど再発行までに悪用された場合は補償されませんので、失くさないように気を付けてください。ちなみにAランク以上になるとゴールドカードとなり、カード所持者の魔力でしか使えないようになります」
「セキュリティ・・・」
悠真と龍華は口をそろえてそうつぶやく。
二人は50リオンづつをカードにチャージし、残りは残しておくことにした。
チャージが終わり悠真と龍華はギルドを後にした。
「ギルド登録だけで、かなりの情報量でしたね」
「そうだな、まさかキャッシュレスのシステムまであるとはな」
「どうやら紙幣が無いようなので、みんな銀貨やら銅貨をどう持ち歩くのかと思いましたが、こういうシステムだったのですね」
「ギルドカードには驚かされたな、それにこの世界の文字が読めてしまうのも不思議な感覚だ」
「書くこともできるんでしょうか?」
「宿屋についたら試してみるとするか」
そういうと、二人はガルスに紹介されたシュトラウス商会へ向かうことにした。