【商業都市バルゼンへ】
スライムと遭遇した森を抜けると街道は丘陵地帯にさしかかる。
街道脇は果てしなく広がる牧草地帯で、遠くには牛ににた動物が草を食んでいた。
「バルゼンの街はもう近いのか?」
悠真がガルスにそう問うと
「ああ、この丘陵地帯を抜けたらバルゼンだ。この先はもう危険な事も無いだろうからゆっくりしててくれ。」
「すこし話をしてもいいか?」
「ああ、馬達も落ち着いたし大丈夫だぞ」
悠真はこの国の経済や商業について聞き出しておくことにした。
「この辺のことに疎くてな、通貨の事を教えてほしいんだが?」
「この辺はもうオルディア王国の国内だが、通貨は基本的に銅貨、銀貨、金貨の三種類が流通している。銅貨はカス、銀貨はリオン、金貨はクラウンと呼んでいる。100カスで1リオン、100リオンで1クラウンだ。ちなみに銅貨と銀貨は世界中で共通の物が使われているから、さっきお前たちが支払ってくれた銀貨もリオンとしてこの国で使うことができるぞ。金貨だけは各国で管理されていて国ごとに異なるが、価値は同じだから他国へ行ってクラウンを使うときは両替をする必要があるぞ」
これを聞いた悠真が尋ねる。
「ちなみに、パンは1個いくらくらいなんだ?」
「庶民的なパン屋で買うなら、パン1個で1カスと考えると良いだろう。」
ガルスの解説を受け、龍華は瞬時に計算する。
「1カスを日本の100円とすると、1リオンは1万円、1クラウンは100万円ということになりますね。」
「なるほど、と言うことはアストライアからもらった200リオンで200万円と言うことか」
「物価はまだ図りかねますので、それが十分かどうかはわかりませんが、当面の生活には困らなそうですね」
龍華は少し安心した表情を見せる。
悠真はガルスが交易商人だと自己紹介していたのを思い出し、信用できる商人と渡りをつけておこうと考えた。
「ついでで申し訳ないんだが、信用できる商人を紹介してくれないか?」
「ああ、それならシュトラウス商会に行くと良い。俺も後で行くつもりだが、お前たちの事を話しておいてやる。受付で俺の名前を出せば多少は便宜を図ってくれるだろう」
「ありがとう、シュトラウス商会だな、ギルドで登録が終わったら行ってみるよ」
「シュトラウス商会はオルディア王国国内はもちろん、他国にも支店を構えている大店だから、何かと融通が利くはずだ」
「それは心強いな、ぜひ寄らせてもらう」
それから、バルゼンの街についていろいろと情報を聞き出しながらのどかな旅程が続く。
ガルスから聞き出したバルゼンの情報をまとめると、バルゼンはオルディア王国へと続く交易路の要衝であり、多くの商人や旅人、冒険者たちが行き交う賑やかな街だ。石造りの建物が立ち並び、露店では果物や香辛料、加工された金属製品などが売られ、市場は活気に満ちているらしい。
ガルスから、悠真たちの故郷についても質問されたが、東方の田舎から出てきた商人見習いというていでなんとかお茶を濁した。
そんな会話をしながらも馬車は順調に進み、太陽が地平線に沈み始めた頃、悠真たちを乗せた馬車が、バルゼンの街を囲む城壁に作られた門に到着した。
門では、衛兵が身分証の確認をしている。
「ガルス、俺たちはどうすればいい?まだギルドでの登録が済んでないから身分証を持っていないぞ?」
「ああ、そうだったな。街に入ったらギルドに行くことを伝えれば10リオンで街に入れてくれる。その時渡される割符とギルドの登録証を提示すれば8リオンを返してくれる。2リオンは税金だな」
悠真が龍華に「2リオンなら2万円か・・・まさか異世界でも税金を取られるとはな!」と言うと
龍華は少しひきつった笑みを浮かべ「社長は税金を払いすぎてますからね」と皮肉を言われた。
「それじゃあ、ここでお別れだな」
馬車から降りて街へ入る手続きをしていると、登録証を提示して一足先に手続きを終えたガルスが近づいてきた。
「ああ、とても助かったよ。紹介してくれたシュトラウス商会にはあとで顔を出すようにするよ」
「そうするといい、もしお前たちが商人を目指すならきっと役に立つだろう」
「またどこかで会ったらよろしくな!」
「ガルスさん、お世話になりました。」
龍華もお礼を伝えると
「いやいや、小遣いももらったし、スライムも撃退してもらったからな、俺がもらいすぎだ、もしどこかで会うことがあれば、今度は俺がお礼をさせてもらうさ。バルゼンは活気のある街だが、手癖の悪い奴も多いし、うっかりすると詐欺やぼったくりにも遭う。用心しろよ。」
「じゃあ、良い旅を」
悠真と龍華はガルスと固い握手を交わし、別れた。