0430
東京で開催されるホラーリアル脱出ゲームに参加するため、私は友人二人と現地で待ち合わせをした。小部屋で謎を解き、廊下を全力で逃げ回り、追いかけてくるおばけから必死で逃げる。そのスリルを楽しみながら、イベントを無事に終えた。
日が暮れ、宿泊場所を探す必要が出てきたとき、ふと記憶が蘇った。以前借りていたマンションのことを思い出したのだ。そのマンションは商業施設の上層階にあり、ホテルのような外観をしている。鍵もまだポケットに入っていることに気付いた私は、友人たちを連れてそのマンションへ向かうことにした。
マンションのエレベーター前で、ある記憶が頭をよぎった。「そういえば、部屋が変わったという連絡をもらっていた気がする」。ポケットから鍵を取り出し、付けられたプレートを確認すると、手書きで番号が書かれていた。
表には「0629」、裏には「0430」。新しい番号が0430だった気がするが、記憶が曖昧で自信がない。
そこで1階の受付で確認してみることにした。受付窓口は1番、2番、3番と3つあり、どこも慌ただしく人が並んでいた。私は3番の窓口に並び、順番を待つ。窓口には若い女性の受付嬢がいて、忙しそうな様子だった。
「すみません、部屋を借りていた者なのですが、しばらく戻っておらず、その間に部屋が変わったような記憶があります。番号が曖昧で、確認したいのですが……」
私は鍵を見せながら尋ねた。嬢は一瞬眉をひそめ、困ったような表情を浮かべた。
「それは私にはわかりませんね。こちらが問い合わせの番号になるので、直接お電話で確認をお願いします」と紙を渡された。そこには管理会社の番号が書かれていた。その場でスマホから電話をかけてみたが、何度試しても繋がらない。
仕方なく私は「両方見に行ってみます」と言い、エレベーターで4階へ向かうことにした。0430が新しい部屋番号だったと思うからだ。
エレベーターが開くと、私は強烈な違和感に襲われた。マンションの近代的なホテル調の廊下ではなく、そこはまるで旅館のような木造の廊下が広がっていた。暗い木目の壁と床はひどく古びており、静まり返った空気がただよう。
私は友人たちと0430号室を探し始めた。しかし、案内図にも実際の廊下にも、その番号の部屋は見当たらない。0429、0431と部屋は並んでいるのに、0430の部屋だけが存在しなかった。
エレベーターホールに一人の老人が座っているのに気付き、恐る恐る声をかけた。
「すみません、0430号室を探しているんですが、見つからなくて…」
受付嬢と同じように、老人は私の持っている鍵を見つめ眉をひそめた。老人は、ここに長く住んでいるが0430号室は見たことがない、と言う。番号を間違えられているのではないかと逆に問われてしまった。
困惑して立ち尽くしていると、突然背後から声がかかった。
「お嬢さん、お困りかい?」
振り返ると、見窄らしい服を着た中年の男が立っていた。乱れた髪とニタニタ笑うその顔に、不気味な気配を感じた。
「0430号室を探しているのですが……」と状況を話すと、男は鍵をじっと見つめ、ニヤリと笑って言った。
「ここに来る前に、受付でお連れさん全員の名前と連絡先を書かなきゃ、部屋は出てこないよ」
その言葉に強い違和感を覚えた。そんなことはこれまで一度も聞いたことがない。「部屋が出てくる」という表現にも引っかかり、恐怖を感じた私は礼を言ってその場を離れようとした。歩き出してすぐに、呼ばれた気がして振り返ると、そこにはもう誰もいなかった。
困惑しながら廊下を進むと、薄暗い木製の窓口が現れた。まるで古い風呂屋の番頭のような窓口で、その中には黒柳徹子のような髪型をした着物姿の老婆が座っていた。
「すみません、この番号の部屋に行きたいのですが」
私は鍵を見せた。老婆は静かに鍵を見つめ、そして顔を上げると言った。
「しばらく戻っていなかったね?海外にでも行っていたのかい」
私は1年ほど実家にいたことを話した。老婆は少し悲しげな表情を浮かべ、こう続けた。
「その部屋が見つからないのは、近づくなという意味だ。残念だけど、諦めたほうがいいよ」
「そんな……部屋には私の物があるのに!」
その言葉に老婆はわずかに目を伏せた。そして、受付の奥から何かが動く気配がした。現れたのは、手鞠を持った日本人形のような子供だった。
子供はじっとこちらを見つめながら、冷たく言い放った。
「帰ったほうがいい」
その瞬間、私は目を覚ました。
※この物語は、私が実際に見た夢を記録したものである。