第4話:ボス、思ってたんと違う
その後も順調に魔物を倒しながら進み、遺跡の入口のような場所にたどり着いた。
そこに入って階段を降りると、気づけば次の階層――ここはD級なので最後の階層だ――に到達していた。どこのダンジョンも最後の階層にあるのはボス部屋と決まっていて、ここも例に漏れていない。
中は石造りの遺跡のような作りになっていて、地面は第一階層から入ってきたらしき砂で覆われている。
「いやぁ……なんだか不気味だな。こう、雰囲気がすごいっていうか?」
「大丈夫だって! 私、ここのボスは一回倒したことあるし! 確か炎蜥蜴だったかな。動きは早いけど耐久力はそこまでないよ」
「そ、それならいいんだが……」
アルマの言葉はとても頼もしいが、しかしどうしても剣を握る手に力が入る。
[懐かしいな炎蜥蜴! 昔は苦戦したなぁ……]
[今じゃ片手間でボコせるもんなw]
[アルマちゃんなら瞬殺できること間違いなし!]
コツ、コツと響き渡る足音と心臓の鼓動が重なり、呼吸が乱れる。
そのとき、アルマが俺の左手を握りしめた。
「大丈夫だって言ったでしょ。私は絶対に死なないし、ヴェインも死なない。何があっても絶対に守って見せるから。ね?」
語りかけてくる彼女の声と共に鼓動は落ち着いていき、精神も安定していく。魔法にかかってしまったかと思えるくらいにその言葉には優しさと心強さがこもっていた。
「ほら、ボス部屋の門だよ。準備はいい?」
「――おう!」
大きく深呼吸し、息を整える。
もう、大丈夫!
「じゃあ、行くよ!」
アルマが石の門に手を触れ、ゴゴゴ――と開けていく。
いつしかプレイしたゲームの光景を幻視しつつも、そこに鎮座するボスの姿を凝視する。
「これが……炎蜥蜴?」
大広間のような空間の中心にいたのは、大きな翼と太い四つの足、そして勇壮で獰猛な瞳を持つ赤い皮膚の魔物だった。
例えるならそう――ドラゴンのような。
[あれ、これなんか違うくね?]
[これってうちのギルメン殺ったやつじゃ……]
[助けに行きたいけど遠い……アルマちゃん頑張ってくれ!!!]
資料や配信で見た炎蜥蜴となんか違うな、と不思議に思ってアルマを見る。
「はっ……なっ……に……こっ……」
そこには顔を強張らせ、怯えたような表情で浅く息をするアルマがいた。額には汗が滲み、さすがのオレでも違和感には気がついた。
「お、おい。大丈夫か!」
「はっ! ……ヴェイン。私はもう覚悟を決めたわ。絶対にあいつを――炎龍を倒して見せる!」
炎龍。
そう聞いた瞬間に、「やっぱりか」という納得感を感じつつ、「死ぬかもしれない」という絶望に襲われる。
だが、アルマは覚悟を決めた。ならばオレもそれに従う他ない。
「ギャアアアオ!」
目の前の炎龍が叫ぶ。それだけで足がすくみそうになるが、なんとか意志の力で押し返す。
「アルマ! オレがこいつの気を引くから、そのうちに懐へ潜り込んでくれ!」
「で、でもそしたらヴェインが――!」
「アルマがその前に倒しちゃえばいい、そうだろっ!?」
「分かったわ! 〈凍気武装〉!」
刹那、アルマの剣は更に凍てつき、彼女の装備も凍った。それどころか、冷気がオーラのようになって近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
――その姿は、まさに彼女のスキル【氷魔剣王】の名にふさわしいといえるだろう。
これこそ彼女の奥義。彼女いわく、これで倒せなかった相手は今までいないそうだ。
「かかってこいよ! オレが相手してやる!」
その言葉と同時に、アルマも炎龍も駆け出した。
アルマが右側に移動したのを見たオレは、真っ直ぐに突進してくる炎龍に対して左側に駆け出した。そうすればアルマが背後を取れるだろうと思っての行動だ。
ここはとても広く、この図体のでかい炎龍も自由に動ける。
そのため次から次へと爪撃が繰り出されるも、それをなんとか回避しつつ、常にオレとアルマが一直線になるようにと動き回る。
「グルルル……!」
しかしついに避けきれないタイミングでの攻撃が来てしまった。仕方なくオレは立ち止まり、鋭く長い爪を剣で必死に受け止める。
「重ッ……!?」
その図体に見合う重さがオレにのしかかる。全身の骨と筋肉が悲鳴を上げる中、一瞬でも力を抜けばそのまま押しつぶされてしまいそうな圧力に耐え続ける――そうすれば、いつかアルマがどうにかしてくれると信じているから。
「ハアッ!」
そんな雄叫びが聞こえた瞬間、炎龍が驚いたような声色で絶叫する。それと共に炎龍のバランスが崩れ、重圧から開放された。
そう、アルマが腹を切り裂いたのだ。
炎龍は龍種。いくら頑丈な鱗に全身を覆われていても、腹だけは柔らかい。
しかし油断はできない。今は大量に出血しているが、このまま放置していたとしても勝手に回復されてしまう。そのため攻撃を加え続けなければならないのだ。
炎龍が横転し、立ち上がろうともがいている中、オレの足は気づけば動き出していた。目標はあの大きな目。それを片方でも潰してしまえば、機動性が落ち、更に攻撃しやすくなると思った。
アルマは腹の前で暴れる尻尾と戦っている。まさに好機としか言いようがない。
「ハァァァァッ!!!」
眼前に顔が迫る。そしてオレは、思い切り高く飛び上がり、目に剣を突き刺した。
「ギャアアアアアア!?」
炎龍が再び叫び暴れ狂う。その拍子にオレは顔で薙ぎ払われてしまい、勢いよく吹きとばされる。
数秒は空中にいただろう。部屋の端まで飛ばされたことでいきなり壁にぶつかり、肺の中の空気が全て抜け、背骨にヒビが入る音が鮮明に聞こえた。
感じたことのないような痛みに耐えながらも立ち上がり、肩を軽く回してみる。
ところが、不思議と骨が折れた様子はない。このまま戦闘を続行できそうだ。
すると、なぜかたたらを踏んでいる炎龍の尻尾に吹き飛ばされてアルマがやってきた。
[アルマちゃん!? お願いだから死なないで!!! 僕の生き甲斐が!!!]
無防備に背中を強打したオレとは違い、アルマは冷気が具現化してぶつかる瞬間だけふんわりと勢いを殺していた。
「アルマ、大丈夫か!?」
「え、えぇ……私は大丈夫よ。というか、そっちこそ大丈夫なの!? さっきすんごくぶっ飛ばされてたじゃない!」
そう言って肩を力強く握られる。
アルマさんや、もしオレが骨折しまくってたら激痛でとんでもないことになってますよ?
「オレは問題ないぞ。全然動ける」
「すごいわね……普通はあれで脊椎まで折れて死んでてもおかしくないわよ?」
「それはオレもびっくりしてる」
本当だよ。よくもまあ、あれで元気なままだと自分でも感心してしまうね。
「それじゃあ、二人揃ったことだし、気を取り直していくわよ!」
片目を潰され、腹を切られてもなお、奴はピンピンしている。
オレたちはほとんど無傷。
しかし怪我はデバフ。つまり現状はオレたちの方が有利と言える。
――さぁ、第二ラウンドの開始と行こうか。
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