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第14話:磊落

「きゃああああ!!」


 視界が晴れたと気付いた刹那、足元にあるはずの感覚がないことにも気がついた。そう、一般には床と呼ばれるものだ。


 というわけで、我々三人はダンジョンを自由落下している。


「パラシュートなしでスカイダイビングするなんて経験は珍しいもんだな」

「当たり前よ! こんなの人生に二回もあってたまるかー!」

「そんなに怖がるなよ。ほら、オレに掴まれ」


 身体を傾けアルマの方へと移動すると、伸ばした手でアルマの腕を掴んでぐいっと引き寄せる。

 何かいい体勢がないかと思考を巡らせれば、オレの胸元で抱きかかえる姿勢が脳内に浮かんできた。ちょうどいい、と思ったのですぐさまそれを実行する。


「ちょっ――!?」


 まるで驚きのあまり声が出ないかのようだ。顔も赤く染まっている。いったいどうしてかと考えたとき、お姫様抱っこという言葉が脳裏によぎる。


「そうか、なるほど。アルマは恥ずかしがっているのか。でも今は配信してるわけでもないし誰も見てないぞ?」

「あ、当たり前でしょ!? 私だって女の子なんだから恥ずかしいに決まってるじゃない……! というかなんでヴェインはそんなに落ち着いているのよ!?」

「……いや、実を言えばオレもちょっと恥ずい」

「――っ!」


 むっと口を一文字に結び、なんとも言えない表情で押し黙るアルマ。しかしその頬の赤らみは次第に増してきている。


 ……どうしてこんなカップルみたいな空気になってるんだ。今もまだ落ちている最中だと言うのに。これじゃあ恋にも落ちてしまいそうだな。


「……主、なんか変なこと考えておるじゃろ」

「そ、そんなことないし!」

「主の感情程度、この妾が分からぬとでも思ったか! はっはっは! あ、ちなみに数秒後に地面にぶつかるぞ」

「――へっ?」


 アルマとケーナによって引き起こされた感情の落差に未だ落ち着かないこの状況の中、足に軽い衝撃とともに懐かしい感覚が蘇る。要するに地面だ。


 俺とアルマは無傷——心には若干のダメージが入ったが——で、ケーナは背中の辺りから生える翼をはためかせて空中にふんわりと浮いていた。

 

 そこは、巨大なホールのようだった。円を描くように囲われている壁に明かりが灯っていて床は石造り。一つ異常なのは、とんでもなく長い――オレらが落ちてきた穴が上にあることくらい。

 構造的なのはそれだけで、そこまでおかしいわけじゃない。


 一方、中身のほうは異常なものしかない。


 ここはホールの端っこ。そして真ん中には倒れ伏す数人の姿があった。顔は地面と接しているために影が出来ている。そのためはっきりとは見えないが、見覚えのある服装の人がいることは間違いない。

 一瞬その名を口にしそうになるも、合っていたときにその現実を認めることになるのだと思った途端に声が喉から出ていかない。


「皆血だらけ……早く治療しないと……!」

「そうだな。オレなら治療くらい容易く――」


 若干血の気が引いたような表情のアルマが慌てたように呟く。

 オレも同調し、恐怖をなんとか押さえつけながら歩き出そうとしたそのとき、ケーナがオレたちを呼び止めた。


「待つのじゃ。その、言いにくいのじゃが……そこの者どもは、既に全員事切れておる」


 事切れる――普段は耳にしない言葉とはいえ、その意味は知っていた。

 だからだろう、全身に嫌な寒気を感じた。だが同時に一つの希望に思い当たる。


「オレなら、死者を蘇らせられる」

「なっ!?」

「そうなのヴェイン!?」

「あくまで可能性だがな。でも……」


 言葉を止め、見た目だけが変わっていない左手をさする。


「こいつは違うと指摘しなかった。それが何よりの証拠だ」


 さてと。前代未聞の所業を為すとしようか。


 =====

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 テストも終わりまして、そろそろ更新速度も直せそうです。本当にすいません。

 そろそろカクヨム甲子園も始まりますし、新作にご期待ください。


 ……というか!本当はもっと早く完結するつもりだったのに!なんでこうなった!

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