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十一月 その四

-前回-

選挙が終わり、白組の猫又がメディウのお頭となった。命は猫又呼び出され、桜組の者に会ってきてほしいと頼まれる。さらに暈陰雲からも探偵事務所を任せてくれないかと提案される。


  翌朝、命と暈陰雲一家は道場へ向かった。


 「お邪魔します。暮夜ぼや」道場の中へ入ると暈陰雲は言った。


 「ういさま。来てくださって嬉しいです」暮夜ぼやは喜んだ。命を通じて一家の現状は知っていたので、暈陰雲が訪ねてくるのを待っていた。


 「素敵な道場ね」暈陰雲は事務所同様に目を輝かせて見渡す。「沢山の弟子がいるのね」と道場で稽古していた動物を見る。


 「いいえ。少ない方ですよ」暮夜ぼやは少し恥ずかしさを交えながら言った。


 「うららさんは?」


 「今は買い出しに出ています」


 「あ!」子猫の声。「あまちゃんだ!」


 現れたのは暮夜ぼやの第二子、ほのだった。ほのは暈陰雲の足元にいる天に近づく。


 「来てくれたのぉ!?一緒に遊ぼうよ!」と小さな天の手を取る。


 天はチラリと母を見上げた。


 「いいわよ。行っておいで」暈陰雲は促す。


 小さな猫は同意するようにほのを見た。


 「行こう!」ほのは天を引っ張って家のほうへ向かった。「おねーちゃーん!おぼろー!天ちゃんが来たよぉ!かくれんぼしよーよー!」と叫ぶ。


 「おい!遠くへ行くなよ!道場か家の周りで遊べ!気を付けるんだぞ!」暮夜ぼやがドスの効いた声で注意する。


 「はーい!」


 「元気ね」暈陰雲はホッとした。「天もきっと喜んでいるわ。連れてこられてよかった」


 「怪我させなきゃいいんですが」父は三姉弟を心配したあと三毛猫の息子を見た。「それじゃ、いつも通り基礎から始めるか」


 「はい」命は頷く。


 「ういさまたちはどうなさいますか?」叔母夫婦に尋ねた。


 「あの、」樋成が控えめに声をあげる。「よろしければ自分も参加していいでしょうか?稽古に興味がありまして」


 「えぇ。もちろん」暮夜ぼやは快く受け入れた。


 「じゃあ私も見学させてもらうわ」と暈陰雲。


 オスの三匹は他の生徒と共に基礎運動を始めた。


  「樋成さん。ぜひうちの奴と手合わせしてやってくれませんか?」基礎運動を終えると暮夜ぼやは樋成に提案した。


 「いいでしょう」程よく体が温まった樋成はやる気になっていた。


 「お願いします」暮夜ぼやはこの道場で一番の古株を連れてくる。「お手柔らかに。おい、お前はこっちに来い」と命を引っ張る。「話がある」


 「はい?」命は父に付いて行った。


 二匹は道場の裏へ移動する。


 「お前、何かあったのか?」暮夜ぼやは息子と向き合った。


 「え」


 「いつもと動きが違うぞ。何か考え事してただろ」


 「あ…。はい」見抜かれていた。


 「なんだ?照のことか?」


 「いいえ…。いや、姐さんのことではあるのですが…」


 「話せ」暮夜ぼやは険しい顔をさらに険しくさせた。


 「暈陰雲さまから提案がありまして。事務所のことです」と昨夜の話をした。「俺が決めていいと言ってくださったのですが、俺は家族ではありませんし、親父にも相談したくて」


 暮夜ぼやは低く唸った。「お前が悩むのも分かる。確かにこのままでいいわけねえな」


 「ですよね…。どうしたらいいでしょうか?」


 「あの事務所は…」しばらく悩んでから口を開く。「お前の好きにしろ」


 「え?」驚いて父を見つめる。


 「俺よりもお前のほうがあの事務所に居ただろ。お前が決めていい」


 「親父はあの事務所を残したいと思わないのですか?」


 「思ってるよ」即答する。「だがその決定を下すのは俺じゃない」


 「でも…。俺でもないと思います」


 「いいや。お前が決めろ。ういさまに預けても残しても、俺は構わない」


 命は喉の奥でぐぅと唸って悩んだ。こうした重要な決断を下すのはいつも照の役目であったため慣れていなかった。


 「今すぐに決めなくてもいい」暮夜ぼやは悩む息子に助言した。「ただお前が少しでも後悔するような選択は取るなよ」


 「はい…」


 「今夜も照を探しに行くのか?」


 「あ、いいえ。少し用事があって」命は歯切れ悪く答えた。


 「なんだ?」暮夜ぼやは怪しむ。


 「あまりお話できないんです」


 「なんだよそれ。まさか危ないことに首突っ込もうとしてるんじゃねえよな?」


 「いえ。そういうわけではないです」


 「じゃあなんだよ。隠し事するなんて水くせえぞ。話してみろよ」


 命はその言葉に少しムッとなった。「親父のほうこそ隠していましたよね?」


 「なにを?」


 「誘夜いざよいさまから若頭の座を勧められたと。暈陰雲さまから聞きました。親父はそんなこと一言も言ってくれませんでしたよね?」


 「あぁ…」暮夜ぼやは気まずそうに耳を掻いた。「そうだったな。悪い」


 「どうなったのですか?うららさんとは話したのですか?」


 「あぁ、話したよ」暮夜ぼやは事を説明した。「冴夜さよと照を探せるのなら俺だってそうしたい。でも俺は若頭にはならねえから」


 命は複雑な心境になった。暮夜ぼやが若頭になるのを断ったことに安堵する気持ちと、少し残念な気持ちも湧いたからだ。


暮夜ぼやには守るべき家庭がある。それは命も十分に分かってはいるが、やはりどこかで暮夜ぼやに期待していた部分があった。


そして同時に疑問も湧いた。暮夜ぼやが捜索隊の指揮を執らないとなると、誘夜いざよいは大掛かりに照を探すことはしないのか?


 「で?お前は何を隠してるんだ?」こっちはすべて話したぞと暮夜ぼやは胸を反らせる。


 「隠しているわけではなく、言えないのです。他言無用だと言われているので」


 「誰がそんな指示を出してるんだ?誘夜オヤジか?」暮夜ぼやは驚きを交えながら聞いた。


 「いいえ。違います」


 「じゃあ誰が?」


 「言えません」首を振る。


 大きな黒猫は三毛猫を見つめる。「なにをしているんだ?悪いことなのか?」と息子を叱った。


 「いいえ。そうではないです」そうではないはず。


 「おい…」白状しない命を睨みつける。


 「すみません」命は頑なに口を閉ざした。


 「……分かった」絶対に喋るつもりがないのだと察し、暮夜ぼやはため息をついて諦めた。「今夜はそれがらみの用事に出かけるんだな?」


 「はい」


 「どこへ行くつもりだ?それは教えてもらうぞ。何かあったときのためだ」暮夜ぼやは念を押した。「お前までどこを探せばいいか分からないなんて事にはなりたくねえ」


 命は迷った。厳密なことを言うと猫又と会ったことは他言無用だと言われたが、桜組の所へ行くこと自体は口止めされていない。


 「俺は…。桜組の事務所へ行きます。これ以上は言えません」


 「桜組?」思いもよらぬ場所が出てきて暮夜ぼやは驚いた。「なんで桜組の所なんか。選挙はもう終わっただろ?照が関係しているのか?」


 「すみません」命は再び口を固く閉ざした。


 「……はぁ」深いため息をつく。「わかった。ならその用事が済んだら俺のところへ顔を出せ。お前が無事かどうか知りたい」


 「はい」頷く。「今夜中には伺います」


 「あぁ」


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