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二月 その五

-前回-

照の家族のこと詳しく話した命。由緒正しき家柄の照と、どら猫の自分が結ばれるはずがない、と話したところで照が帰ってきた。


 「ただいま」


 「おかえりなさい。姐さん」助手は立ち上がって小さな探偵を迎える。「いかがでしたか、モグ・モグのほうは」


 「やはりこの祭りで全く土遊びしてくれなかったぞ」黒猫はため息をつく。


 「お疲れさまでした。今日も北の森へ?」


 「あぁ」


 「奥さんへのお土産は見つかりましたか?」


 「うむ!とても綺麗な首飾りを見つけたぞ!」照は加工された光の石が付いた首飾りを誇らしげに見せた。


 「きっと喜ばれますよ」命も満足げに頷く。


 「照さん」禅が立ち上がった。「改めてお礼を言わせてください。寝床を貸していただきありがとうございます。とても素敵な事務所ですね」


 「いえいえ。お役に立ててなにより」照は長いヒゲをピンと立てて喜んだ。


 「つむぎもちゃんとお礼を言いなさい」禅は弟分に促す。


 「はい!」つむぎも立ち上がり、尊敬の眼差しで照を見つめた。「ありがとうございます!」


 「うむ!君が買ってきてくれた青リンゴ菓子のおかげで元気がでたよ。とてもくちい!ありがとう!」


 「えへへ」子犬は丸まった尾を振り回す。「ところで、北に森があるのですか?」


 「そうだよ」


 「よろしければこの街のことを教えていただけませんか」と禅。「これからお世話になるかもしれませんので、通暁(つうぎょう)の方々からご教授いただきたいのです」

 

 「もちろん!」照は北を指した。


「この街の北から北東にかけて森があります。森自体はそこまで広くないですし、何か危険なものがいるわけでもありません。けれどその奥にある沼地には気を付けてください。そこに行った者は全員姿を消すと言われているほど危険な底なし沼ですから」


 「底なし沼?」つむぎは首を傾げる。


 「一度入ったら最後、出ることはできない…」探偵は低い声で脅した。「足を取られてゆっくりと沈んでいくんだ…」長い尾を不穏に揺らす。


 「ひぇぇ…」子犬は怖がった。


 「絶対に行ってはいけませんよ。つむぎ」禅が念を押して注意する。


 「はい!」プルプルと震えながらつむぎは返事をした。


 照は教示を続ける。「街の北西から中央、東側にかけては動物たちが生活を営む地域となっています」手を上から流れるように右へと動かす。


「南には光の石が採れる鉱山が連なっています。この街は夏になると太陽が微かに上りますが、犬の国と比べると暗く、猫の国と比べると明るい程度。雨や雪が降ることもありますが、気温は穏やかでどの動物でも過ごしやすい場所になっているかと思います。以上」お辞儀をして締めくくった。


 「勉強になりました」禅も軽く頭を下げる。


 「光の石って犬の国にも売ってますけど、ここのですよね?」とつむぎ。


 「他の場所でも採れますが、」命が言う。「メディウ産のものは質がいいと言われていますね」


 「その通り!」照は胸を張った。


「光の石はその名の通り光る石。その青い光は蝋燭の火より明るく発光し、熱くならず煙も出ない。匂いもしない。叩くだけで光るから蝋燭を作るような作業工程もいらない。とても便利な石だ。しかもメディウ産の光の石はその効果が他より高くて重宝されているんだよ」


 「なるほどぉ!」つむぎは納得した。


 「他に何か知りたいことは?」黒猫は自慢げにえへんと鼻を鳴らす。


 「この街は確か、二頭政治でしたよね?」禅が質問する。「警察はどちらにも所属していないと聞きましたが、本当ですか?」


 「はい。そうです」照は耳を下げた。


「一応、紅組と白組の者が組織内にいるとされていますが、信憑性は低いですね。これから警察試験を受けるお二匹にこんなことを言うのは酷ですが、この街の警察はあまり統率が取れていません。なので治安がいいとも言えないのです。


私たちの事務所に来る動物も警察の相手にされなかったと仰る方がよくいます。次の選挙でお頭が決まれば警察も良くなると言われていますが、どうなることやら」呆れ気味に首を振る。


 「なんとなんと」禅は悔しさを滲ませた。「我らはそのような愚行を犯したりはしませんよ。どんな動物でも助けてみせますから」


 「そうです!」つむぎも叫ぶ。「僕も全員助けてみせますとも!」


 「それは心強い」照は喜んだ。「この街のために尽くしてくれる動物が増えるのは嬉しい限りです。彼らがいてくれたら私たちも安心だな、命?」と三毛猫を見上げる。


 「はい」命は同意した。


 「あ、そうだ。照さん」禅が言う。「命さんとの会話から察するに、モグ・モグを探されているのですか?」


 「はい。そうです」


 「よろしければ今夜の宿のお礼にそのお手伝いをさせていただけませんか?」


 「おぉ!」照は長い尾を伸ばした。「それは大変に有難い申し出ですが、今夜はもうモグ・モグは出てこないでしょう。それに明日は大事な試験の日。今夜は早く休んでそちらに集中してください」探偵は丁寧に辞退した。


 「お心遣いに感謝いたします。このお礼はいつか必ず」禅は微笑んだ。「お優しい方々と出会えて本当によかった。明日の試験もきっと上手くいくはずです」


 「頑張ってくださいね」照もニコッと笑う。「ではみなさん。おやすみなさい」




  翌朝、四匹は事務所の前に集った。


 「昨夜はお世話になりました」禅が深々と頭を下げる。


 「試験、頑張ってくださいね」照は応援した。


 「はい。頑張ります」


 「がんばります!」つむぎも気合を入れた。


 「もし受かった場合、ここでしばらくのお別れとなってしまいます」狼犬は大きな耳とふさふさの尾を下げた。


「宿舎に入ると自由に外出はできませんので。次にお会いできるのはいつになるのやら。落ちた場合は夕刻ごろにご挨拶に伺ってもよろしいでしょうか?」


 「分かりました。長いお別れとなるほうがいいなんて少し変ですね」黒猫はヒゲ袋を寄せる。「受かった場合でもまたいつか、きっとお会いしましょうね」

 

 「はい。必ず。では我らはこれで」禅はお辞儀した。


 「さようなら!」つむぎも笑顔で言う。


 狼犬と子犬は希望を胸に去って行った。


 「なんとも気持ちのいい方々だったな。好感が持てる」照は助手に言った。「不思議と気も合った」


 「俺もそう思います。なぜかすらすらと言葉が出てきて、喋りすぎてしまったかなと」命は少し反省した。


 「きっと禅さんにそうした能力があるのだろう。彼が気付いているのかどうかは分からないが」照は予測した。


 「どういうことですか?」


 「あの狼犬の魅惑的な目と、礼儀正しい性格のせいだよ。つい何でも白状してしまう雰囲気がある。それにつむぎくんの無邪気さと純粋さも相俟(あいま)って気分よく話せたんじゃないか?」


 「なるほど…」


 「あの二匹は良い一対(いっつい)だね。警察向きともいえる。ぜひとも活躍して欲しい」


 「そうですね」


 「さてと。私は昨日買ったお土産を母さんに送るため郵便屋へ行ってくる」


 「分かりました。お一匹で大丈夫ですか?」


 照は体の大きな三毛猫をジロリと睨んだ。


 「分かりました。俺は留守番してます」


 


  夕方になり、照と命が事務所で過ごしていると、大きな音を立てて戸が乱暴に開いた。


 「照さぁ~ん!命さぁ~ん!」泣きべそをかいたつむぎが入ってきた。


 「つむぎくん」照は驚いた。「もしかして…?」


 「悲しいです!僕だけ落ちましたぁ!」びえんとその場に泣き崩れる。


 「それはそれは」照はつむぎの元へ駆け寄り、その頭を撫でて慰めた。「命、お茶を入れてあげて」


 「はい」助手は台所へ走る。


 つむぎは命が入れたお茶を受け取るとひとくち飲んだ。


 「落ち着いたかい?」黒猫は尋ねる。


 「はい…」つむぎは鼻をすすり、頬の毛を濡らしたまま頷いた。「僕は幼いから駄目なんですって。禅さんは受かって宿舎に入りました。お二匹によろしく伝えるよう言われました」


 「そうかそうか」うんうんと頷く照。


 命は子犬に手ぬぐいを渡した。


 つむぎはそれで鼻をかむ。「どうして幼いと駄目なんでしょう?確かに僕は子供ですけど、ちゃんと仕事できます!」


 「うーん」照は唸った。「幼いということで色々と問題が出てくるからね。君自身が悪いわけではないんだよ。ただ少し早かっただけだ」


 「でも…。酷いです!」つむぎはまた頬毛を濡らした。


 「仕方ないさ。この世には自分の力だけではどうにもできないこと、変えられないものがある。それでも君の才能は消えやしないよ。いつかきっと陽の目を見る時が来る。君が諦めなければね」


 「照さん…」つむぎは憧れの眼差しで探偵を見る。黒く丸い目がキラキラと光った。「僕、諦めません!絶対に!諦めませんとも!」


 「うむ!いい心構えだ!」照は明るくパッと笑った。「さて、このあとは犬の国に帰るのかい?」


 「はい。とりあえず帰ります!」


 「一匹で行ける?送ろうか?」


 「大丈夫です!禅さんが帰り方を教えてくれたので一匹で行けます!」つむぎは涙を拭った。「帰ってお父さんとお母さんとお姉ちゃんに報告です!」


 「君にはお姉さんがいるんだね」


 「はい!()()()お姉ちゃんです!とっても優しくてしっかり者のお姉ちゃんなんです!」家族のことを想ってつむぎは元気になった。


 「良かった。では気を付けて帰るんだよ。ご両親とお姉さんによろしく伝えてくれ」探偵は子犬の肩をポンと叩いた。


 「はい!照さんと命さんのこと、これ以上ないくらい沢山伝えます!お世話になりました!」将来有望な子犬は目標新たに犬の国へと帰って行った。

 



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