私の名前はハヤシミツル、林に囲まれて…
林(M)『「まあ」と云ったあとしかし看護婦はこれ見よがしに大胆に足を組み替えて見せた。その際に見えた奥の色は……白だ。俺は異様に刺激されて生唾をグッと飲み込む。普段から、いや生まれてからずっと女っ気ゼロの身だったとはいえ、ここに来て欲情すること甚だしい。どうも、どこか、なにかおかしい。これはちょうど……抑制がまったく効かなくなるという、まるで‘夢’の世界の中にいる時のようだ。俺は問診表を彼女に手渡ししたあと、カウンターに肘をついて、体をハスにして、立ったままで足を組む。まるでスタンドバーのプレイボーイだ。ふだん無口な俺とはまったく違う、いたって饒舌な男に化そうとしていた。看護婦の素足の‘魔法’に魅せられた、いや、癒されたがごとしである……』
荒木田「ところで林さん、この下のほうのお名前はなんとお呼びするんですか?ミツルさん?」
林「そうです。満杯の満と書いてミツルです。ハヤシミツル。名は体をじゃないですが、私の人生そのもののような名前でして。行く手をさえぎる生い茂った雑木、林に囲まれて身動きができない、八方ふさがりのような状態なんです。はい」
荒木田「そうなんですか。それは困ったもんですね」
林「ありがとう、そう云ってくれて……しかし実はその雑木、行く手をふさぐ木々というのは、私にとっては世間、人間どものことなんです。差別や罵り、イジメごころに充ちた、鼻持ちならない輩どものこと。私のまわりにはそういった連中が多すぎて……もう、そもそも見たくないんです!聞きたくない、関わりたくない、こんなやつらと。いっさい御免だ!」
荒木田「そ、そうですか。それはどうも。私も一応人間だと思いますので、そんな私が見えちゃってすみません」