首吊り男
林(M)『これはどうだ、この部屋の中は……白一色だ。壁も天井も床も……看護婦の制服と帽子もだ。
なんだか精神が失調しそうになる。カウンターの中で椅子に腰掛けて足を組んでいる、看護婦の足だけがやけに刺激的だ。それとあの絵……4号ほどのサイズで壁に掛けてあるやつ。背景が赤一色で……そしてその中央には……なんと、首を吊っている男の姿が!近づいて行ってよく見てみると、はて、この男は……どうも誰かに……』
荒木田「林さん!」
林「(びっくとして)わっ、驚いた。お、脅かさないでくださいよ。俺は、い、いや、私は気が小さいんだから……なんで俺の、い、いや、私の名前を知っているんです?」
荒木田「あら、ごめんなさい驚かせて。絵の前で固まっているみたいだったから(軽笑)お名前は保険証に載ってますから」
林「あ、そうか。し、しかし、それですよ、それ。この絵……いったいなんですか、これは。首吊りの絵なんて。縁起でもない!病院に、それも精神科の待合室に掛けるようなものですかね」
荒木田「先生のご趣味なんです。おかまいなく。それよりもこちらの問診表に記入してください」
林「趣味って、あんた(苦笑)いったいどんな趣味ですか。ちぇ、まったく……いいですよ、いま書きますよ」
林、カウンターに向かう。そのスリッパの音。カウンターの上にバインダーを置きペンを走らす音等。
荒木田「あら、どうぞ、ソファの方で。お掛けになってお書きください」
林「いや、いいです。立ったり座ったり面倒だ。ここの方がいい。あなたのその、素敵なおみあしも拝めるし」
荒木田「まあ」