荒木田看護婦とスカイプ
弁士「あー、どうぞどうぞ、お構いなく。いや、お構えなく。遠慮なさらないで、そのままズーっと手前までお進みなさってください。噛みつきゃあしませんから。どうぞ」
林「え?いや、ちょっと俺は……」
弁士「いや、ちょっとじゃないんです。なんたってお客さんはあなた一人しかいないんだから。ここであなたに行かれちゃっちゃあ、わたしゃお飯の喰いあげだ。ねえ、荒木田さん」
林(M)『え?荒木田さん?……活動弁士の視線の先にはなんと、スクリーンいっぱいに映った荒木田看護婦の姿があった。しかもこれは……荒木田看護部の眼は……しっかりとこちらを、俺を捉えている。こ、これは、ビデオ通話だ。スカイプだ……』
荒木田「林さん、荒木田です」
林「あ、荒木田さん……」
荒木田「林さん、オタオタしないで。しっかりして。これも錐最戸先生の診療の一環ですから。さあ、腰掛けて!」
林「あ、はい……」
林、ふらふらと前に進み観客席の中央くらいの席に腰掛ける。その靴音や席のきしむ音等。
荒木田「そうそう(軽笑)。林さん、先生が診断されたあなたの病名をお伝えしますね。あなたは解離性同一性障害、多重人格症の一歩手前の段階だそうです。精神分裂の一歩手前ですね。林さん、これはとっても危険ですからね。人生そのものを滅茶苦茶にしかねません。真剣になってこれから直しましょうね。では、文治……もどき師匠、よろしくお願いします」
弁士、ズッこける。
弁士「も、もどきぃ……?(咳払いしたあと荒木田に返礼して)いや、かしこまりました。おまかせください」
林『そんな……お、おまかせくださいって……よろしくお願いしますって……二人で勝手なことを』
荒木田「(林に向き直って)では林さん、私はここまでです。じゃあ、頑張ってね。チャオ、ロミオ(林に手を振る)」