さあ、入ったり、入ったりーっ!
木戸番の男「はい、ドクター・スイサイド。錐最戸先生。のみならず、あのお美しい荒木田看護婦があられもない姿で出演……もあるやも知れませんよ。(小声で)しかしあるかな?」
林「な、なぜ荒木田看護婦のことまで知っているんです。あ、あんた、いったい何者だ。だいいち此処はいったいどこだ?」
木戸番の男「何者って……だから、木戸番者ですよ。まあ、旦那、細かいことは気にせずに、例の先生の〝まあまあまあ々々々、そんなことはどうでも〟の調子でやっつけちゃってください。ねえ。なんたって荒木田ですよ、荒木田、荒木田。お代はあとでいいから、さあ、入ったり、入ったり!」
木戸番の男、台から降りて来て林の背を押し演芸場の中へと入れてしまう。それらの音。
木戸番の男「さあ、こっちですよ、旦那」
林「お、おい、おい……」
木戸番の男「(中へ)はい、お客さん、ご案内ーっ!」
背後のドアが閉められるとともにBGM止む。無音。
林(M)『これは……強引に入れられた演芸場の中は、ミニシアター規模の映画館のようだ。座席数はざっと見200ほどか。正面に映画スクリーンがあって、その手前に幅2メートルほどのステージが観客席に張り出している。左隅に釈台が置かれていて、そこには活動弁士のような男が、張扇を手にして控えている……ん?あれは、あの男は、どうも誰かに似ているな……そうだ、思い出した。(十代目)桂文治だ。桂文治にそっくりなんだ(軽笑)……しかしそれにしても観客が一人もいない。これはいったい……』