君が悪いからだよ
錐最戸「それはそうだろうが。君はいま男らしくないと云ったが、それを云うんなら泣く云々よりも、君の普段の生活ぶりではないのかね。どうかね!?」
林「生活ぶりと云いますと?」
錐最戸「さっき荒木田君に(おちょくるように)‘聞きたくない、見たくない、関わりたくない、こんなやつらと。いっさい御免だ’などと云ってたじゃないか。ぜんたい君は日光の猿か。世間から逃げまくる、そんな自分を男らしくないとは思わんのか」
林「先生、逃げてはいませんが、私は好きじゃないんです、世間の輩どもが。見栄っ張りで、自分勝手で、いつも他人を見下そうとする連中が。しかしそんな俺の波動が伝わるのか、私はいつも孤立無援で、一人きりです。私をさいなむ連中に事欠くことはありません。すればそんな世間を敬遠したくもなろうじゃないですか」
錐最戸「しかしなぜそうなる?なぜ孤立無援だ?」
林「だからそれは……」
錐最戸「君が悪いからだよ、林君。だから誰も応援しないんだ」
林「お言葉ですが先生、なぜそう簡単に決めつけられるんです?私はある止んごとない事情から車上生活者まで追い込まれた人間です。理由はどうあれ一度ホームレスに落ちてしまうと世間の連中は白い目で見ることしかしない。言いわけ無用で、世のスケープゴートとして罵り、さいなむだけだ。私の目からすればそんな世間はひとつに見える。さきほどのシェークスピアの‘阿呆ばかりの世の中’、ですよ!」
錐最戸「いや、少なくもだ、私は罵りもしなければさげすみもしないよ。君がそうなるにはなるだけの、なにごとか、のっぴきならぬ事情があったのじゃろ。あの天国の壁にいま映っているのは……あれはなにか……ヤクザ者らによる執拗な睡眠妨害、それとその他もろもろの生活妨害かね?」
林「えっ?」