錐最戸医院特注品、天国への入口!
錐最戸「どうです、林さん、この診察室に入るだけで心が癒されるでしょう」
林「は、はい……こんな部屋、いや、診察室は始めてです。あの正面の壁、い、いや、空間は?……あれはいったいなんですか。やわらかな光がいっぱいに広がっていて、あそこから滝のような音?……か、森林のオーラのようなものがひしひしと伝わって来る。本当に……おっしゃるとおり、心から癒されます」
錐最戸「あれは私が特注したものです。名付けて‘天国への入り口’。他の病院や医院には絶対にない、わが錐最戸医院だけの専売特許です。林さん……実際に癒しの波動が、光が、いま君の身いっぱいに、あそこから注がれているのですよ」
林「……い、癒しの、ひ、光?……この、俺に?(突然胸がいっぱいになって涙ぐむ)」
(M:癒し系のBGM、クレッシェンド、デクレッシェンドでしばし続く)
錐最戸「……林さん、つらかったじゃろ、苦しかったじゃろ。よくここに来た、来てくださったな。心配しとったんじゃよ」
林「は、はあ、恐れ入ります。すいません、なんか胸が突然いっぱいになっちゃって(涙ぐむ)……みっともない、女みたいで(苦笑)」
錐最戸「うむ、それはいい。診察室の中では男も女もない。好きなだけ泣いていいよ……いやあ、とにかくね、林さん。さきほどのことじゃが、私が云いたかったのは人生とは舞台、自分が生身で演じる芝居であるということを、それくらいの気概を持て、と云いたかったのだよ、わかるかね。ここへ来るまでの君のあの生き方では、つまり演技ぶりでは、たぶん舞台から降ろされていただろう。この大根、引っ込め!と演出家からどやされて、観客からブーイングを受けてな(笑い)」
林「はあ、そうでしょうか」