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第十七話 ティータイムの戦い

 ――セツナ視点



「初めまして! セツナです」


 よく晴れた街の一角にて……

 自分よりも背の高い金髪の女狩人に、わたしは練習したウソの笑顔を見せつけてやった。


 なんだかすごく青ざめた顔で引きつっているギルを視界の端に捉えながら完璧な笑顔を維持していると、その女性はきょとんとしながら口を開いた。


「えっと、アイリーンです……。

 ……先生。人見知りする子って言ってませんでしたっけ……?」

「ああ、そうだな」

「なんか思ってたより明るいですね……?」

「ああ、俺もびっくりしてる」

「というか、先生が抱えてる孤児って、女の子だったんですか……」

「……なんだよ」

「いえ、別に?」


 ほんの少しギルをにらみつけたアイリーンが、膝に手をついて、にこ、と微笑んできた。


「セツナちゃん、今日はよろしくお願いしますね」


 う、なんだこの眩しい笑顔は……っ!


 この圧倒的な強者だけが持つであろう余裕の微笑み……!


 わたしはくっと顎を引き締めた。

 こ、これは骨が折れるかも。


「あー、それで今日はセツナの提案で一緒に魔物退治するだけ……って予定なんだよな?」

「もう、先生! その前にお茶ですよ!

 いっしょにご飯食べて、それから魔物退治です!」

「……正直、さっさと切り上げて帰りたいんだがな……」

「そんなこと言わずにほら! 行きますよ」


「セツナちゃんも早く」と手招きしてきたアイリーンに明るめの声を返しながら、わたしは拳を握りしめた。


 気圧されてたまるか。

 この女から学べるだけ学んで、ヴィジョンの通りの未来をつかみ取るんだ。


 人の世界で生きるすべも、人の姿で魔物を倒すための技術も……

 ぜんぶ盗んでやる。


 揺れる長い金髪をにらみつけながら、わたしはその後ろについていった。





「それにしてもセツナちゃん、きれいな銀髪ですね……」

「うん? そうかな?」

「目もきれいなオッドアイですし、北方の美人さんみたいでかわいいです」

「んふふふ」


 思いがけずちょっとにやけてしまった。

 このアイリーンという人、ちょっとは見る目があるのかもしれない。


 こんな明らかにただ者ではない人物すらも騙せてしまうなんて、やっぱりわたしの擬態は完璧だ。


 ……いや、完璧ってわけでもないか。

 魔法の宝箱のときのように解けてしまうこともあるし、三日しか維持できないし。


 落ち着け、わたし。

 ここが正念場なんだ。気を引き締めろ。


「そういえば、セツナちゃんはどこから来たんですか?

 そんなきれいな銀髪があるなら、やっぱり北の地域からでしょうか?」

「うぇ!? そ、それは……」

「――ところでアイリーン、今から行く店ってどんなところなんだ?」


 いきなり会話を遮ってきたのはギルだった。


 一瞬ぼろが出そうになって焦ったけど、ちょうどよかった。

 ここはギルの影に隠れてやりすごそう。


「えっと『メリー・ハープ』っていうお店です!

 前から気になってたんですよ~。

 窓際の席がとれたらいいんですけど」


 聞いたことのあるお店だ。

 というか、前にギルと行ったことがある。


 たぶん西の区画でいちばんおしゃれなあのお店だ。

 魔物退治ででかいやつを仕留めたときにギルがごほうびで連れてってくれたっけな。


 そんな思い出の場所にこの弟子の人も来るのか……。


 ……よし、最初から強気でいこう。


 狩人たるものメンタルの持ちようが大事って教わったし、自分で物事をコントロールできるようにここで優位に立っておこう。


 わたしが先にリードしなければ。


 ぐっと拳を握りしめて、にやりと頬を釣り上げた。




「……先生? どうしてそんな汗かいてるんですか?」

「いや、今日は日差しが強いからな……」

「そんなに強くないと思いますけど……?」






 メリーハープのお店は平日で空いていたらしく、狙っていた窓際に着席することができた。


 三人で四人掛けの席に座り、ギルとアイリーンの二人が目の前で話しているのを視界に収めた。


「何にします、先生?

 お金は私が出しますよ」

「あっ、サンキュ……。

 ……じゃあ一番安いのにしとこうかな……」

「別に遠慮しなくてもいいのに。

 これでも私、稼いでるんですから」

「……スゥ――……」


 目頭を押さえてなぜかつらそうにしているギルを横目に、わたしはひとり静かに頭のなかでイメージトレーニングを重ねていた。


 最初にこの店にやってきたときは、注文の仕方すらも分からなくてギルに任せきりだったけど、二回目ともなれば十分である。

 キメラの学習能力を見せてあげよう。


「アイリーン、このお店ではこうやって注文するんだよ!」


 店員を呼び、すすすとにじり寄ってきたその人に自身満々にお茶の名前を告げて注文を完了。


 どや、と胸を張っていると、目の前のアイリーンはきょとんとした顔を浮かべていた。


「えっと、そうですね?

 ……あ、店員さん、私にも同じのひとつ。

 あとシーパ・ティーもお願いします」

「あー、悪いなアイリーン。

 こいつまだ世間知らずだからさ、突飛なことしでかすかもしれなくて……」

「それくらい平気ですよ。別に気にしません。

 それよりここのお店なんですけど、聞いた話によると店長さんが……」


 邪気のない笑顔でこの店の創業秘話を語るアイリーンに、わたしは歯を食いしばった。


 ぐ、ぐぬぬ。


 ……いやまだだ。

 まだリードを奪うチャンスはある。


 やがてすぐに運ばれてきた香ばしいかおりの立つお茶を前に、わたしは深呼吸をした。


 次はテーブルマナーだ。

 これはギルだけじゃなくて、街に住んでる偉そうな人たちの食事時を観察して身につけたのだ。こっちのほうが自信がある。


 肩の力を抜き、ゆったりとカップを手に持ってそっと口元に傾ける……。


 どこからどうみても、上層の貴婦人のごとく優雅な所作だ。

 狩人なんていう荒くれものの仕事をしている女にはこれは真似できまい。


 さあどうだと、わずかにまぶたを開いて相手の反応を覗き見た。




 ――そこには自分ですら見惚れてしまうほどきれいにお茶を飲むアイリーンの姿がそこにあった。


「おお、飲み方がずいぶんさまになってるなアイリーン」

「そうですか?

 あ、そうだ思い出しました。私の狩人仲間に詳しい人がいてですね。

 その人から教わったんですよ~」


 ティーカップを持つ手が怒りで震えそうだった。


 この人はわたしの努力を何だと思ってるんだろう。


 カタカタと音が鳴りかけているカップをゆっくりと机の上に置き、荒くなりそうな鼻息をどうにかして抑え込みながらその場をやり過ごした。





 それから何度かアイリーンはわたしにも話を振ってくれたけど、事前にイメージしていたようにうまくはできなかった。

 どこか不自然な様子で受け答えをするわたしを見て「いったい何で張り合ってるんだか……」と呆れるギルが恨めしく映った。

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