⭐︎愛⭐︎未来予想
「ねぇ、ねぇ、玄武さん、あの山ってなんて名前かな?」
竜は、武甲山を指差して言った。
「僕、時々サイクリング中に見ていますが、あの山の名は武甲山です。良質な石灰を掘削し、セメントなどの原料に。だからあのような姿になってしまって……」
虎時は2人の後ろ姿をハンドルに突っ伏しながら見つめていた。
武甲山は山頂に縄文時代の遺構や祭祀あとなどがあったそうだが、現在ではすでに掘削済みで跡形もない。
ただの、階段状の灰色の禿山だよなぁーー『ンw!』
虎時は手に汗握る。
(なんか、肩肘ついたデッカイゴロツキみたいな、ゴツイ竜がこっち見ているのですが!)
「う、うん」
武甲山を眺め、竜の顔がひきつっているように見える。
(しめしめ、竜も何か見えていたな!)
玄武はどうだと、見てみた虎時だったが、そんな竜を見つめていた。
ーーコンコン。
窓を叩く音がして左側を見ると、麒麟が立っていた。
「虎時、お前が運転するのか?」
「玄武のやつ、魅入られています」
「竜ちゃんにか?」
「ご冗談を」
武甲山にいるゴツイ竜は、片目を瞑って、閉じ、消えた。
「虎時、今のお前は落語のねずみの彫り物みたいだな。その調子では竜ちゃんをわしの車に乗らせた方が良さそうだ」
「やめてくださいよ。俺はもっと可愛い浦和の調神社の兎さんですよ?」
「虎時は、浦和のう⚪︎子ちゃんではないのかな?」
「恐れ多い。すみませんが、竜をよろしくお頼み申す」
「おう、頼まれよう」
麒麟は竜を誘って、車へ案内する。
「玄武、お前は後部座席に、お迎えの白狼さんの隣に座ってくれないか?」
ぼーーっとしたままの玄武だったが、左側シートにお座りしてこちらを見つめる白狼の気配くらいは気がついたようで、運転席の真後ろに力なく座ったが、すぐさま外へ出ると竜の手を取った。
「竜ちゃん! 僕と、サイクリングに行きませんか?」
「は、ハイ?」
すぐそばにいて、車の無線で開く鍵を開けた麒麟がハッとして顔を上げて言った。
「玄武、お前。竜ちゃんはワンピースだ。サイクリングは無理だぞ、竜ちゃんのパンツでも見たいのか?」
苦笑いな麒麟。
「それなら、俺もサイクリングする! すぐそこの観光案内所に行けば、自転車が借りれるのであります!」
「いや、そうじゃないぞ。虎時、お前まで」
麒麟は、腕時計をチラリと見た。
「確か、レンタサイクルは17時までだ。もう、3時近い。また、次の機会にしよう」
玄武は目を輝かせ、竜の両手を握った。
「竜ちゃん、僕、ここら辺の観光でしたら! ぜひ、ご案内させて下さい!」
虎時はゆっくり、外に出て、もう一度武甲山を見上げた。
「アラ、アラ。玄武さん。武甲山の神気に絆されてません? ーー聞いてくれるか麒麟。あの竜、片目を瞑っていやしたよ!」
「ああ、そうだな、虎時。困った、困った。玄武、知っているとは思うが、武甲山は妙見山とも呼ばれててな。秩父神社の神奈備であり、妙見とは優れた視力の意。鎌倉時代、千葉氏は弓箭神(軍神)としても崇めていたのだぞ。よりによって、弓の師範であるお前が、何を血迷っているのだ……」
「ねぇ、ねぇ、竜ちゃん! あぁ、また、現れた、アイツ! 気だるそうにそっぽむいて、ため息つきましたよ!」
虎時がさも、面白そうに言う。
「うぅーーん……」
竜は、目を凝らしたが、武甲山のゴツイ竜は見えない。
「さぁ、竜ちゃんは、わしの車で行こうかな」
「すみません、なんだか、私も麒麟さんの車を運転したくなっちゃった!」
麒麟は、その申し出に初め苦笑いしたが了解した。
虎時は再び玄武の車に乗り込みハンドルを握った。
玄武も運転席の後ろに乗り込んだが、左シートに先客が複数乗り込んでいた。
透明な蛇と、白狼が品よく座って振り向く事なく前を向いていた。
「そう言えば、朱雀はーー」
虎時が言うと、
「先に行っているそうです」
俯いたまま、玄武は答えた。
参考資料
「武甲山(秩父)」を往来する龍神様。天空と地上をつなぐ神様。
http://eikojuku.seesaa.net/article/253021068.html
千葉氏 妙見信仰
https://www.city.chiba.jp/sogoseisaku/sogoseisaku/identitysuishin/chiba-myouken.html