⭐︎神の随(まにま)に⭐︎
「大人の男が四人でお遊び……ですか」
着物の厳つい四神の後ろで、呟く。
麒麟が軽く振り向いて、すまなそうに頭を掻いた。
虎時もつられて頭を掻く。
「竜ちゃん、気を取り直して下さい。そう言えば、龍門寺は曹洞宗のお寺らしいですよ! ほら、新潟の出雲崎の良寛さん!」
「子供と遊ぶの大好き良寛さん……って、虎時さん。もっと、私を煽ってない? 私、虎時さんに苦労なんてかけていないもんーーたぶん」
「ははは、竜ちゃん、麒麟との話を聞いていたんですか? あれは、麒麟がいつも俺に 『虎時、お前は世話し過ぎだ』って、言われるからですよ」
「そうーー虎時さんは誰にでも優しいしお世話する。でも私だって、子供じゃないよ!」
「はい、そうですにゃーー」
玄武は先回りして、虎時と竜の目の前に車をつけた。
「どうぞ、二人とも乗って」
麒麟と朱雀はそれぞれ自分の車に乗って来た。
虎時は竜の手を肩にまわさせ、抱き抱えると玄武の車高が高い車の後部座席に押し込み、自分も乗り込んだ。
すっぽり身体を包み込む深くフィットするシートに、バックミラー越しにチラリと見てきた玄武の視線に一瞬ドキリとした竜。
すぐに隣に座り込んだ虎時に頬を膨らませ、ヒソヒソ問い詰めた。
「別に良いんだよ、私を置いて、私人の四神仲間で楽しく遊びに行ったって……」
「ですが、俺が側にいないと寂しくないの?」
「寂しい……けど」
竜から見たら歳上の厳ついおじさん仲間。親しくなったとはいえ、人間嫌いの竜には少し辛いのか。
「竜ちゃん、すまない。麒麟が次回作の構想の為に、遊びに行こうと誘われたのです。もちろん俺も、麒麟を止めたんですよ。竜ちゃんには荷が重すぎるって。ですが、竜ちゃんも連れて行きたいって。ああ、ちょっと。下前身頃が乱れているのであります⭐︎」
「キャ! 虎時さん。そ、そういうのはもっと、早く教えて。恥ずかしっ! ーー確かに、高価なお着物での移動とか、お食事とかさ……無理だよ」
「大丈夫です。俺が居る!」
「ハイハイ、虎時さんがいるもんね!」
竜は前身頃を整え、つま先を揃えた。
「ねぇねぇ、虎時さん。この間、守護の竜が頭上にいるって言っていたけれど、虎時さんの守護って……」
「ああ、白虎。白くて大きな猫さんですよ。極上の毛並みの、もっふり、もふもふ!」
「へぇ〜〜、良いなぁ! 見てみたい!」
「見てみれば良いじゃない!」
虎時は腕組みをして言った。
「フゥン、虎時さんってば、ケチ!」
「竜ちゃん、悪く思わないで下さい。ーー見る、見えるは人それぞれの観念の……」
玄武がバックミラーで二人を見つつ、言った。
「玄武、イメージの世界って事ですか?」
「竜ちゃん、玄武は時々呼び捨てにするのですね」
「なに、虎時さん、嫉妬?」
「いいんだ。俺はシットリしているから」
明らかに挙動不審だろうな、俺、虎時。
「イメージと言うか、脳内で見るというか。目ではなく全身の感覚と言うかさ」
「玄武さんと、話していると新潟の家族とお話しているようでつい、呼び捨てになってしまいます」
竜、精一杯。
「そう言えば、玄武さんの守護さんって」
「はい、四神で言うところの北を守護する玄武。亀に蛇が絡みついている、あれですよ」
「玄武の守護さん、見てみたいなぁ!」
「竜ちゃん、まずは俺の白虎を見てから」
「やだ、やっぱり〜〜嫉妬ぉ?」
竜、満足気にニンマリしてる。
「虎時の言う通りです。僕の守護が見える事は無い」
「よせやい、玄武。見える事は無いじゃなくて、見えたらやばいのであります」
「虎時さん、それってどう言うこと?」
「……だって、蛇ですよ。見えたら、食われちゃいますよ」
「食われる、玄武の守護さんに私が?」
「参ったな、虎時」
ハンドルから両手を離し、手を挙げて言った。
「大丈夫だ。何かあれば、玄武であっても俺は、容赦しないのであります!」
「二人とも、話が飛躍し過ぎてわけわかんない。でも、今回は私人の四神の大人の遊びだし、守護を見るとかなんとかもーー出来ちゃう、私、見えるようになっちゃうの?」
竜は何に興奮しているのやら。
「まあ、竜ちゃん。まずは、俺の白虎いる?」
「何よいきなり」
少し考えてから、
「家のリビングに白い……」
「それは、我が家のお猫様w」
「……そう言えば、ずっと疑問に思っていたのだけど、虎時さんの守護さんが白虎だから、虎時さんは猫が好きなの、それとも前世でホワイトライオンが大好きだったから、今世でも猫大好きだしーーそれって、何か、前世からの魂の癖とか、なんか?」
「竜ちゃん、そうだとしたら、玄武も亀とか蛇とか……」
虎時が言いかけて、言葉に詰まった。
「別に僕は爬虫類嫌いじゃ無いです。でも、僕は……」
玄武、言い淀む。
「あ、ごめん、ごめん。ただちょっと、ほら、なんだか四神の守護さんって、トーテムみたいな存在じゃん、可愛いし!」
「四神の守護が可愛いだって、竜ちゃん、それはどうかしてるわ」
虎時は目をキリリとつりあげ言った。
「えっ、虎時さんさ、私がどうかしてるって?」
「だって、竜ちゃんは守護の青龍と向き合おうとすら、しないじゃないか」
「青龍と私が向き合う、ですって。どういう事?」
「……それだけ、畏れ多い事だからさ」
「玄武、そういう事で良いよな」
「虎時、僕もそうーーかなぁと。ほらほら、僕らの観念ですし」