ペタペタ⭐︎ペタペタ
虎時は、凝った肩を軽く回すと、再び竜の方へ向き直った。
そうして、今見た儚い白昼夢を告げた。
「虎時さん、匂いと既視感のある夢って、もしかしたら側頭葉てんかんの特徴的なーーって、虎時さんて持病以外、何か病気があるって聞いたことが無いし……大丈夫だよね?」
「ふふふ、竜ちゃんは時々、ドキッとする事を言いますね」
「いや、別に。最近ネットで見ただけだよ」
結婚して良いところは、自分の気がつかない、些細な事象をめざとく見つけ合えるところだ。
親兄弟とも、また違う一歩踏み込んだ優しさで。共依存ではなく。
とても些細な声掛けが出来る関係は、ホッとするし、ハッとするのだ。
「そうですかーー」
虎時は頭を書いた。
多分違うとは思うが後で、てんかんについて、調べてみよう。
「竜ちゃん。お話の続きを聞きたいですか?」
竜も背伸びして、あくびした。
「いやぁ、なんとなく。その話、つまんないかな」
「どうして、ですか?」
「え、だって、その男、遊女さんを抱きもしないし、商人のご先祖様もオランダ麒麟さんとも、ナーンも絡みが無いんだもの」
「絡みですかーー、そもそも、江戸時代で竜ちゃんはーー」
「私さ、虎時さんと出会うまで、あまりーー人間好きじゃないのかが、虎時さんのお話を聞いていて何故なのか分かったよ」
「それは、どんなことろがですか?」
「どんなに全力で、私がサポートしようとしても、私の話なんて、だれも聞いてはくれないしーー仲間にも入れてもらえなかった。だから、いつもひとり」
「心が、ですよね?」
「ウハハ、そうそう。心がね。ーーなんとなく、周りには人がいるんだけれども、『気持ちを理解してもらえない』透明のガラス一枚挟んでいる感じ。余計、寂しくなると、言うか」
「今だって、『俺だって、竜ちゃんの全てを理解しているわけではないのです』 そうかもしれませんよ?」
虎時は笑った。
「今は、私が一言聞けば、根掘り葉掘り、一緒に考えてくれたり……それこそ、ザ・ミステリーww」
「婚活四方山紀行ですね。話がいつもとっ散らかるww」
「うんーーでも、最近は歴史に沿って、ミステリーを解き明かしている気がするけどーー?」
これまで、虎時さんと一緒にいて、時代を遡っているようで面白い。
「そうですか……。それは歴史ミステリーー!」
「そう言えば、江戸時代と言えば、気になっている事があるんだよね!」
「気になっている事ですか?」
「そうそう、『ぬっぺらぼう』!」
竜が全てを言う前に、虎時は顔を歪めた。
「今の今まで、ロマンス、ロマンスゥ! って言ってた人はどこ行った?」
虎時苦笑い。
「いや、だって虎時さんの白昼夢のあんな感じの私ってば『モノノケ』じゃんね?」
モノノケ。玉姫稲荷の後眷属様の姿を借りた麗しい江戸の花をその口でなんと言うのですか。
「よしてくださいよ。そんな自己卑下をするのはww」
「いやいや、虎時さん、面白いじゃんね! 『ぬっぺらぼう』」
「それと、ちょいと惜しい。江戸時代ではなく、安土桃山時代のお話ですね。 ※ 慶長14年、駿府城の中庭に、肉塊のような者が現れた。形は小児のようで、手はあるが指はなく、肉人とでもいうべきものだった。とウキペディアにーー」
虎時はデスクに座ると、サッと検索した。
「徳川家康公と聞くと、私、昔からぬっぺらぼうを追い払えって言った将軍ww」
「竜ちゃん、徳川家康と言えば、天下統一した武将って感じでないの?」
「生類憐みの令?」
まあ、目の前にいるのが尻尾を振りまくる小動物みたいだとは、口が裂けても言えない虎時。
「それは、五代将軍の徳川綱吉ですよww」
「徳川家康って、何代将軍だったっけ?」
「初代将軍ですよ。ーーアッ! そう言えば、竜ちゃんの好きな織田信長にも仕えた事がある歴史上の人物ですよ!」
「へぇーー、意外と短い期間に色々あったんだ!」
「竜ちゃん、学校で歴史の勉強受けましたよね?」
「うん、確かに歴史の勉強はした気がするけどーー縄文、弥生に古墳、飛鳥。。それに、平安時代。私の興味関心のある歴史の勉強ってそこぐらいでーー!」
竜はニコニコ笑って答えた。
そもそも、竜は工業系高校に進み、一般の勉強は中学生レベルに毛の生えた程度だったようだ。
「竜ちゃんの好きな、織田信長が天下統一していたら、江戸の街もどうなっていた事でしょうね。織田信長と言えば名古屋ですし」
「ねねっ、虎時さん、コレ、見て見て!ーー※駿府城の中庭に肉の塊のぬっぺらぼうが出て、駿府城にいた徳川家康が追い出せって命令したってさ!」
「駿府城。静岡にあるお城でって、そう言えばこの間、竜ちゃん、富士山と言えば織田信長の首塚って言っていましたね。富士宮市だったか、静岡県寄りの西山本門寺に織田信長の首塚がーー」
唸る虎時。
「ちょっと、ちょっと、待ってよ! 虎時さん、なんで今、その話?」
キラキラ、好奇心旺盛な眼差しを向け、胸を寄せてきた。
「俺は、竜ちゃんが気になる事は、普段から出来るだけ確認して認識するようにはしているのですが」
「ふふふ、認識、ねぇ〜〜。くすくす」
虎時は竜に振り向き、言った。
「駿府城に織田信長が現れたのではないでしょうか?」
「はい? 虎時さんーーあーーた、何を言ってんのーです?」
竜は、腹を抱えてゲラゲラ笑い出した。
「織田信長が本能寺の変でお亡くなりになったのは、天正10年の6月2日です」
「ふふ、そうなの?」
「それから、徳川家康が駿府城に居て、ぬっぺらぼうを追い出せと命令したのは、慶長14年です」
「ふむふむ、なになに、それで?」
竜は隣に椅子を引っ張って来て、ちょこんと座るとおかわりちょうだいをしている。
「ウキペディアのぬっぺらぼうについて、こう書かれているのです。※ 妖怪研究家の多田克己は、のっぺらぼうは現在では顔に目鼻がまったくない妖怪として知られているが、古くはこのぬっぺふほふのように顔と体の区別のつかない形態のものだったとしている。顔に白粉をぬっぺりと塗った様を「白化」というが、この「白化」には「しらばっくれる、とぼける」「明け透けに打ち明けて言うと見せかけて騙す」「露骨になる」「白粉で装う」「白い化物」などの意味がある。その「白化」の意味の体現により、ぬっぺふほふはまず人間に成りすまして(しらばっくれて)通行人に近づき、親しげに会話をし(明け透けに打ち解け)、相手が油断したところで正体を現し(露骨になり)、本来の姿(白粉をべったり塗ったような白い化物)を見せるのだという。引用終わり。」
「虎時さん、だから、なんなのかな?」
「織田信長がお亡くなりになったと言われている天正10年から、ぬっぺらぼうが駿府城の中庭に出るまで、数十年あるわけなのですが……」
「それって、この流れから言うと、本能寺の変で敗れたと思われていた、織田信長が数十年後、しらばっくれて駿府城の中庭に言葉巧みに忍び込み、それを知った徳川家康が追っ払えと命令したって事?」
「そうーー、上り調子の家康に水を刺しにやって来て、追っ払われた」
普段より低い声で唸る虎時。
「しかも、すばしこくてなかなか捕まらないとかね」
「世が世なら天下人。そう簡単に死ねませんよw」
「あっ、そうだよねーー」
「うぷぷ、竜ちゃんは肉の塊ですかw」
「違うわよ、やめてよ、もう、虎時さんてばw」
「はいはい」
参考文献
※ウキペディアーーぬっぺらぼう




