虎時さん⭐︎お散歩に行きましょう!
当然ながら、虎時は虎柄の茶トラのアメリカンショートヘアのあの猫様を我が家に連れてきた。
「虎時さんたら、本当に茶トラの猫好きだよねーー」
竜は嫌味ったらしく言う。
だがしかし、茶トラの猫は竜の膝の上で喉を鳴らしてる。
「なあ、可愛いだろう」
「いや、そうだけどさあーーなんつーーか」
竜はお猫様の可愛さを安易に受け入れたくなかった。
もし、そうしたらお猫様に負ける気がして素直になれない。
「お猫様の可愛さを言葉で表現するのは難しいですかな?」
「虎時さん、その言い方ーー、まるで老中w」
「そうですかーー」
虎時は、前髪をくるくると指に巻く。
その仕草をされると、竜は途端に不安になる。
ーー何か自分に不備があったのだろうか、何か悩み事があるのだろうか。
竜に、人間の機微を感じ取る事が上手く出来ないので特にある一定の仕草をされるとそれだけで心がチクリと痛くなる。
竜は人の肌感覚を想像出来ないからこそ、過剰に反応してしまうのだろう。
「虎時さん、また何か考えごとしてる?」
「いえ、何もーー」
「本当に、何も考えていなかった?」
「強いて言えば、何か食べに行きませんか?」
先週は麒麟に連れ出され、二人きりで週末を満喫する事が出来なかった。
あの後、色々あったがそれはまた後日に……。
「そうだねぇ」
竜はこんな感じで虎時と過ごすまったりな休日が大好きだ。
「お猫様の名前でも考えながら、ゆっくりお散歩するのも良いですね」
「その言い方だとさ、別に食べる所は決まっていない、いきあたりばったりでお店が見つかったら食べるとかだよね?」
「ふふふ、そうですねーー」
「やっぱり? あ、そうだ! もう一度、岩槻城址公園付近を歩かない?」
「おやおやw 久伊豆神社へは行きましたが、岩槻城址公園へは行っていませんね」
「そうだっけ? 私の頭の中では行っていたよw」
「それは、どう言う事ですか?」
「あっ、ごめん、ごめん。私、小説書いてるじゃん」
「そうみたいですね」
虎時は竜が小説を書いている事にあまり興味は無いようだ。
「今、書いている小説に黒い男の人が出てくるんだけどーー先日、久伊豆神社に行ったら、ここだって思ったの!」
「竜ちゃん、どうして、竜ちゃんが書いている小説の、その黒い男性と繋がるのですか?」
「いや、なんて言うかーーあの小説の舞台は新潟の親知らず子知らずの辺りから、白神山地だっけ、まああそこら辺が舞台なんだけどー」
「竜ちゃんは、越後、出雲崎ーー出雲の地の竜の加護を受けていますから、新潟や島根の出雲(出雲でもここは違うと思った)が話に上がってくるのは分かりますがーー」