和菓子の我が志☆彡
頼もしいが、話が進展しない。
「虎時さん、壱岐が長崎に近いって言うのは分かったけれども、『私が道でホットケーキを焼きたい』って言ったって言うの。全く、私は言った覚えが無いのだけれども」
「まあさ」
虎時は、パソコンの画面から視線を竜に向けると竜はカフェオレを飲み干した。
「俺は、甘い男だし」
「虎時さんが、カフェオレの様に甘い男ですって?」
「俺はそう思うけれど、違いますか?」
「……」
「俺が出来るのは、ただ君が行きたいところへ行くだけなのです」
「私が行きたいところ?」
「はい、いきたいところ」
「……」
竜は少し、今日の自分の行動を振り返ってみた。
「いや、今日の私は虎時さんに誘われて、秋葉原に行ったよ」
「行きたく、ありませんでしたか?」
「ううん、行きたくない訳じゃなかったよ」
「それじゃあ、いきたかったんですね?」
「……そうだとおも」
「それでは、それで良かったのだと思いますよ」
「それで、良かった? えっと、どういう事なのかな?」
「どう言う事って?」
はにかむ虎時。
「詳しく、どう言う事なのか話してもらえると嬉しいな」
「う……む。それでは、皿の上のカステラも無くなりましたし、他の和菓子を食べながら話しませんか」
「うん」
また、甘いお菓子を食べるのと言うブレーキは竜には無かった。
二人は、カステラ以外の和菓子が置かれているセンターテーブルに舞い戻った。
「まずは、お嬢さん。このわらび餅を食べてみてください」
「えっ。どうして、わらび餅から食べるの? 私的にはあんみつから食べたいのだけれども」
あんみつに手を伸ばした竜の肩を軽くたたき、選ぶのを止めた。
「お嬢さん、今宵のおやつは、『お江戸からわざわざ取り寄せた(買って来た)、この家の主である私めに選ばせて頂きたい!』」
「ナニナニ、いきなり?」
竜は、急に役にのめり込んだ役者、虎時を見ていつもの様にケラケラ笑った。
虎時の目は本気だ。
「まずは、こちらのお菓子を見て頂きたい」
虎時が指さしたのは、わらび餅だった。
「わらび餅……だよね?」
「はい、その通り。見ての通り、豪華きな粉と黒蜜がセットになっているものですな。ちなみに甲斐の虎の山梨のお土産の桔梗わらび餅は、こちらのわらび餅とは違いますよ」
「虎時さん、どう違うの?」
「わらび餅は、わらび粉。桔梗信玄餅はもち粉で作られているらしいのでありんす」
「へぇ――なるほど! でも、桔梗信玄餅って大宮駅の新幹線の改札付近に売っていたから関東周辺のかと……」
「桔梗信玄餅は山梨県のお土産なのでありんす!」
「は、はい」
虎時のあまりの真剣さにしり込みをする竜。
「コホン。なので、お江戸からわざわざ取り寄せたこちらは、信玄のではなく、お江戸のわらび餅でありんす!」
「はいはい、虎時さんてば『お江戸』を強調するね?」
「お江戸が肝心なので、ありんす!」
「はいはいはい……、って、おい、どうして語尾がお江戸の夜の蝶、花魁風なのさ?」
「ぉお!! さすが、竜ちゃんなのでありんす! ようぞ、聞いてくれんした!」
「うん、だって」
それ以上は言わない。
だって、引き込まれるような妖艶な虎時の瞳に、今にも吸い込まれそうなのだ。
虎時の着物は空色の狩衣、なのだが少し煙草の煙を纏った男の色香がもう、たまんない。
そのまま、引き寄せ抱き付きたいところだが虎時はそれすら、許さぬ禁断の色香を漂わせているのだ。
「……話せば、長うなるのでありんす」