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その3 左町さんは案内人を得る

「森だ」

 

 拓光の狼狽えた声で目を覚ます。

 

「森だ」

 

 隙間から空も垣間見えないほど生い茂った木々に、拓光とまったく同じ一言を発する。

 

「も、森……」

 

 拓光が狼狽えるのも分かる。ドラマとか映画とかドキュンメンタリーとかアニメとか写真とか絵本とか……そういう媒体で見たこともないほどに……

 

 圧倒的に森!

 

 なにこれ、どこ歩くの? 道もヘッタクレもない。

 木アンド木アンド木アンド草。

 

「森……だな」

 

 大の大人が二人そろって、しばらく同じ事しか言えないでいた。

 それほど、どうしていいか分からない場所にいきなりほっぽり出されたのだ。

 

 しかし、年長者はオレ。なんとか活路を見いださねば。

 

「た、拓光。ちょっとアレ、アレだ。木登って。周りを確認してみるか」

 

 人間が肉眼で見渡せる距離は4、5キロぐらいだと聞いたことがある。

 ブルマインの被検者の世界に転移する時は比較的近い所(いうて半径5キロ以内)に移動してる……らしい。

 ならば上から見渡せられれば建物の一つや二つくらい見えるのでは? と思ったのだ。 

 

「ちょ、ちょっとやってみます」

 

 拓光が「うんとこせ」と木を登り枝葉の中に消えて行く。しばらくしてから大声で叫ぶ声が聞こえた。

 

「全然なんも見えねぇぇええ!」

 

 それから木を降りてくると、少しキレ気味でブチブチと文句を言ってきた。

 

「登れるとこまで登ったけど全然無理っす。枝とか葉っぱとか多すぎて、そんな雲の上に顔出すみたいにはいかないっす」

 

「じゃあ、太陽の位置とかで方角とか」

 

「太陽っぽいのが2つあったし、仮に分かったとして、どっちになにがあるかなんて分かんないっすよね」

 

 たしかに。

 

 方角が分かったとて、だからなんだ。

 現在地が把握出来ていない以上なんの意味もない。

 

「詰みじゃん」

 

「詰みっす」

 

 マズイな……プレイヤー見つけるどころじゃない。このまま、ここで彷徨って死ぬ。

 仮想世界で死んでも、脳が死を認識してしまうと実際に死ぬかも……なんて仲村さんが言ってたな、そういや。

 

「で? どうします?」 

 

 んー……適当に歩き回ってみるか? ここに居たって助けが来るわけでもないし……

 

「そうだな、とりあえず歩き回って……」

 

  ヒュッポ♪

 

 突然の電子音がこちらの会話を遮る。

 

『案内人のアップロードが完了しました。仮想世界に反映させます』

 

「え? なに? 左町さん、今の聞こえました?」

 

「ああ、聞こえた。『案内人』がどうとかって……」

 

 目の前でボンヤリと人型になにかが光りはじめる。よく見ると、その中心で輪っかが光りながらクルクルと回っている。

 

「Now loadingみたいな? やつっすかね? 『案内人』ってことは……サポートキャラで間違いないっすよ。左町さん!」

 

 拓光の言うとおり、これは期待できる。

 案内人と言うからには、この世界を作り出している『核』となっているプレイヤーの位置を割り出したり出来るかもしれない。

 

 過去3人の被験者……『プレイヤー』を見つけ出すのは、拓光が言っていた、ある一つの指針によって探していた。拓光曰く……

 

「異世界転生ものなんて皆、チートで無双やってますよ。特別目立ってるヤツの噂を辿っていけば間違いないっすよ」 

 

 拓光の言うとおり、その世界の大事件の中心人物を辿っていけば『プレイヤー』にたどり着くのは容易だった。しかし、確信を得るまでにそれなりの時間を要していたのだ。

 もし『案内人』なるものがいるなら仕事を早く終わらせることが出来る大きな助けになるはずだ。

 

 オレと拓光は期待を胸に、このぼんやりとした人型が実体化するまで待つことにした。

 

 

 

 

 1時間後

 

 

 

 

「んー……変化ないっすねー……」

 

「そうだな……けっこう待ったけどな」

 

 反映させます。つって、いつ反映されるんだ?

 

「あ。左町さん! クルクル光って回ってたヤツが止まってる……って、あれ? これフリーズしてる?」

 

 ホントだ……クルクルが止まってる……え? いつから? もしかして、ずっと止まってた?

 などと考えていると

 

「あ。消えた」

 

 輪っか自体がフッっと消えてしまった。終わった、のか?

 

 ……。

 ……。

 

 なにも起きない。

 

「ええぇ……マジか……もしかしてこれで終わり?」 

 

「いや。待って下さい。もしかしたら、このままの状態で使うものなのかも」

 

 落胆するオレを尻目に拓光はそう言うと人型の中心あたりに手をかざした、その瞬間

 

  ゴッシャ!

 

「ふべっ!」

 

 人型の光の腕部分が拓光の顔面をアッパー気味に打ち抜いた。奇麗な孤を描いて宙を舞う拓光を見て、オレは直ちに短剣を取り出して身構えた。

 

「待った! ちょっと待った! それを使われると消えちゃう! 消えちゃうから!」

 

 人型の光がしゃべった。それも聞き覚えのある声で。

 

「えっと……拓光君だっけ? が悪いよ。いきなり女性の胸をまさぐろうとしたんだから!」

 

 人型の光は一瞬眩い光を発すると収束していき人の姿を現した。

 

「な、仲村さん?」

 

 それは現実世界でナビゲーターをしているはずの仲村さんだった。

 

「お。ちゃんと仲村と認識してくれたみたいだね。」 

 

 仲村さんはそう言って満足そうにウンウンと頷くと状況を理解出来ていないオレに説明を始めた。

 

「私は仲村本人じゃあないんだ。『案内人 ver1.0』。仲村の人格と記憶をコピーした、所謂AIだよ。」

 

 え、AI? これが? マジかよ。人格と記憶をコピーって、そんなこと出来るのか? マジで天才なんだなあの人。

 

「あー……ごめんね? 容量大きすぎて時間かかっちゃったみたいで。私が来たからにはもう……大丈夫だから……」

 

 段々とトーンダウンしてきたかと思うと

 

「それ。しまってくれる」 

 

 オレの手元の短剣を指さした。

 

「あ、おお……す、すいません」 

 

 たしかに。こんな物騒なモノ持って会話もないな。

  いそいそと懐に短剣をしまい、仲村さんに向き直る。

 

「えっと……『案内人』って言ってましたけど……『プレイヤー』となってる人のとこまで案内してくれるってことでいいんですかね?」

 

「いや。そんなの分かるわけないじゃん」 

 

「なに言ってんの?」と完全に期待外れな回答をよこしてきた。

 

「私が来たのは君達がこのブルマインで快適に過ごすことが出来るシステムの案内と新しいシステムの開放、開発する為に来たんだよ」

 

 あっ。そうそう、そうだった。オレこの女にキレてたんだった。救世主みたいな登場の仕方でついつい忘れてた。

 これ怒るとこだわ。

 ダメだ。表情筋保てない。人にしちゃダメな表情になってる。

 

「まあでも、この周辺の地形と現在地くらいなら分かるよ」

 

「それ! それです! とりあえず森から出ましょう! 近くに街とかないですか!?」

 

「よーし、ちょっと待ってよー。うーんと……」

 

「……。」 

 

「私が把握出来る半径5キロ範囲には街らしきものはないねー」 

 

 ほほう。役立たずだわ。もういいわ。やはりこの女……

 

 転移前の怒りが蘇ってくる。

 

「あー……でも街道みたいなのは近くにあるね。これを辿ったら街まで行けるんじゃないかな?」

 

「そ、それ! それ、すぐ行くぞ! 行く……ます!」

 

 ああ、もう感情が追いつかん……

 コイツ多分わざとやってる。オレ遊ばれてる。

 でも、もういいや。こっから出れれば。

 

「ま、こんな所もなんだしね。落ち着いて話できるところまで行こうか。えっと……拓光君も連れて」

 

 そうだった。

 

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