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ジャンクジャイロ!!  作者: 水崎彗花
1/1

①キョンシーとパートナー契約

 「せーのっ」ドサッ

二人の兵士に俺は壁の外へ投げ出される。そして荷物まで放り投げると、兵士たちは壁の中へ戻っていった。

「待って、待ってくれ!」

俺が必死にそう足を掴むと、掴まれた方の兵士が振り向いて

「国王陛下の命令だ。むしろよく追放で済んだな。命があるだけマシだと思え」

と言い放った。そのうえ、乱暴に腕を払って壁の中に入り、門を閉めていく。

「マジかよ……」

取り残された俺は、一人うつ伏せったままうなだれた。なんでこうなったのか。

10分前、俺はいつも通り起きて、指定のものを買って、定時に城に帰ったはずだ。なのにいきなり奴隷として失格とされて、奴隷紋も剥奪された上に、今現在進行形で壁の外へ追い出されている。城からはともかく、国から追い出すなんてひどいじゃないか!俺は内心半ギレのまま一緒に追い出された荷物を背負うと、国とは反対の方向へ歩きだす。とにかく早く別の国に行かなければ。俺の命は絶対に無い。さらば、ラウオ帝国!俺の青春!!

 この世界は壊れていると、誰かが言っていた。魔獣という人を襲う化物がいる時点でおかしいという。そのせいで人類は、巨大な壁を国の周りに築き、土地を制限されるはめになったらしい。僕らにとってはそれが日常だから、特に気にすることもないんだが。壁の外は初めてきたけど、本当に砂漠だらけだ。草木の一本も生えていない。魔獣はなんでも食べるので、壁に守られていないものは殆ど食べてしまっていた。ということは、ここらへん一帯は魔獣がうようよいるってことだ。ここにいてはヤバい。俺は足を速めた。

「たす……けて……」

その時、自分のすぐ後ろからか細い声が聞こえたので振り返ると、人が倒れているのが見えた。

「えっ?」

「助けて……助けて……助け、」

倒れたまま段々と近づいてくるその人(?)は、最後には俺の足をガシッと掴んで、ガバっと顔を上げる。

「腹が減った!飯を…くれ!」

赤い補褂に、同じく赤い暖帽、そしておでこに貼ってある札。そいつは紛れもなくーー。

「キョンシーだと!?」

そう叫ばれた張本人は長い茶色混じりの髪を揺らし、嬉げな表情でうむっ!と頷いた。

                    ★

 「いや〜関心だな。まさかキョンのことがわかる人間がいるなんて!」

キョンシーの幼女ことキョンは、俺の食糧を貪るようにして食べながらそう言った。

「おい、あんまり食うなよ。俺の分がなくなるだろうが」

「人間は水さえあれば生きられると聞いたぞ?」

「……どこ情報だよそれ」

結局一通り全部食べ尽くされた後、キョンは満足げに横たわる。

「キョンは感謝しているっ。助かったぞ、人間!」

「全部食えとは言ってないっ」

俺はそうツッコんで、先ほどから気になっていたことを聞いた。

「お前……。どっから来たんだ?パートナーはどうした」

「パートナー?なんだそれは。キョンは知らないぞ」

「なっ……」

俺はその返しに驚きを隠せなかった。モンスターというのは通常、パートナーと契約し、そのパートナーと共に魔獣を倒したりするのが役目である。それをわからないと言われては、逆に俺が困ってしまう。

「んじゃあ、どこの国から来たんだ?ここらへんだとラウオとか……」

「ラウオ?キョンに国はない!キョンは目覚めたらここに居たっ」

「えっ」

「そもそもキョンは記憶喪失?というものになっていてな、ここに着く前の記憶が全く思い出せんのだっ」

「嘘だろ……」

その自信まんまんなキョンの言葉に、俺は絶望した。まさか記憶喪失のモンスターと会ってしまうなんて。パートナーいたらどうすんだよ、明日から強盗犯で務所行きじゃないか。

「というわけで、人間。飯も無くなったところだし、国とやらに行こうではないか!」

威勢のいい声で俺を引っ張るキョンに、俺は仕方なくついて行くこととした。

「そういえば人間、お前名はなんというんだ?」

「……R373」

「R373?変な名だなっ。覚えづらいっ」

「うるさいなぁ。俺がつけたんじゃないから」

「では、今から名を変えればいいっ。特別にキョンが名付けてやろう」

「なんでそうなる。別になんでもいいだろ」

「ダメだっ。ダメって言ったらダメなんだー!」

そう駄々をこねるキョンに俺は折れて

「じゃあなんだったらいいんだよ」

と聞いてやる。するとキョンは目をキラキラと輝かせてこう答えた。

「お前の名は、そう、えっとだな……。タケゾーだっ、そう、タケゾー!」

「……随分と古臭い名前だな」

俺が顰めっ面で返すと、キョンは得意げに

「いい名だろう?」

と俺に聞く。

「いい名……。逆に貶してないか俺のこと」

「バカっぽいお前にピッタリの名だなっ」

「やっぱ貶してんじゃねぇか!!」

その後も二人であーだこーだ話し合ったが、良い案が出ず、俺の名前は以後タケゾーとなってしまったのであった。

    ★

 それから2日後。

「なぁ、タケゾー」

「なんだよ、キョン」

「腹が減った!」

「お前のせいだろうが」

そう叫んで倒れ込むキョンに、俺はやり投げにそう返す。キョンと出会ってから丸2日、国にも着けず、かといって食糧もなく、俺たちは路頭に迷っていた。

「あーもう、腹が減った腹が減った腹が減ったぁー!!!」

「……暴れても飯は出ないぞ」

俺はそう言いながらキョンと同じ地面にぶっ倒れる。2日間水も飲めず、ただえさえ日々の食事が少ないというのに、もう我慢の限界だった。ギラギラと光る太陽に、鉄板のように熱い土。気を抜いたら意識がぶっ飛びそうだ。そう思うと、悪いことばかり考えてしまう。なんで別の国に行こうとしてんだ、成り上がりでもしたいのか、そもそも野垂れ死んだ方が世のため人の為ではないのか。……そんな自分が、俺は嫌いだ。

「なあタケゾー。なんか地面揺れてないか?ここに近づいてくるぞ」

キョンの言葉に、俺はハッと気がついて起き上がる。壁の外で人がいるとは思えない。そうなれば、可能性はただ一つ。魔獣だ。しかも集団の。

「おいっ起きろキョン。逃げるぞ!」

俺の慌てた様子にキョンはピンときていないようで、

「なぜだ?キョンが見るに、あれはただのライオンだぞ?」

と惚けたことを言う。なんで記憶喪失なのに古代生物は覚えてんだよ、というツッコミを抑えて俺はキョンを掴むと、一目散に走り出した。 が、しばらく走っていくとまた別の方向から魔獣の集団がやってきて、俺らは魔獣に挟み撃ちにされる。グルルル……と威嚇する魔獣達は、まるで本物の生物のようだった。

「おいっすごいぞタケゾー!ライオンをこんな近くで見れるなんて、キョンは嬉しいっ」

赤い瞳を目一杯輝かせはしゃぐキョンを見て、俺は決意した。やっぱり、キョンには無事国に着いて欲しい。そして良いパートナーを見つけて、幸せに暮らして……。ぎゅと握った手には、汗が滲んでいる。でも、俺は決めたんだ。

「……キョン。俺が魔獣を引き付ける。お前は逃げろ」

「タケゾー?何言って……」

俺の様子で察したのか、キョンは顔を強張らせた。

「駄目だっそれだけは。ならキョンが戦うっ」

「お前は記憶喪失なんだろ!?自分の能力とか分かるのかよっ」

キョンは図星、といった表情で黙り込む。

「だったら逃げろ。そして俺の代わりに……」

突然、力尽きたのか、俺はドサッと地面に倒れ込んだ。

「タケゾー、タケゾー、タケゾー!!」

キョンが必死にそう俺の名を呼び、体を揺らしてくるが、俺は指一本も動けそうになかった。魔獣はその間に俺たちを二重、三重にも囲って、狩る準備を整えていく。……もう、おしまいだ。俺がそう思って走馬灯を見かけた瞬間ーー。キョンは、言った。

「タケゾー。キョンも、戦えるぞ」

「……え」

俺が声を漏らした途端、キョンは猛スピードで上まで飛ぶと、大きな機械の手のひらを俺らの方へ向けた。そして緋色の球体を生み出すと、

閃光雨シャイリー!」

と言ってビームのように発射させる。ビームは途中で何粒にも分かれ、雨のように俺の周りに降り注いだ。俺が思わず身を屈めているうちに、次々と魔獣がビームに当たって倒れていく。止んだ後、キョンが下に降りてきた。

「キョン……お前は一体……」

キョンは先程までとは打って変わり、険しい表情をしていた。まるで、別人のようだ。そして彼女が睨む先には、一頭の魔獣が佇んでいた。その魔獣は両目から溢れんばかりの涙を流しながら、ピシピシと顔面を割らし、中から竜の顔が出てきた。魔獣の恐ろしいところの一つに、三段階進化というものがある。ライオン、竜、そして謎の生物の順に進化し、強さもそれに比例するため、魔獣討伐は簡単ではない。そして第二段階である竜は、空も飛べる上に、なんと炎を出すなど特殊能力も使えるのだ。そう考えると第三段階になった暁にはさらに恐ろしいことになるに違いない。魔獣はまるで脱皮でもするかのようにライオンの皮を捨てると、竜の姿で上へ昇っていく。キョンもそれに続くかのように上に飛んでいった。そして魔獣に向けてさっきよりも大きい緋色の球体を生み出し、

集中炎線ホーウェイセン!」

と叫んでビームを放つ。しかし、ビームを真っ向から受けたはずの魔獣は無傷のままであった。どうやら竜状態で物理攻撃が効かないというのは本当だったらしい。そうとなれば倒す方法はただ一つ。魔獣内部にある命結晶を破壊するしかない。魔獣はキョンに向かって口を開けると、キョンが出したビームより大きな炎を出し、放った。

「あぶないっ!」

俺の叫びもむなしく、キョンは真正面から当たってしまい、そのまま下に激突する。

「キョン!大丈夫か!?」

俺はすぐさまキョンの元へ駆け寄った。だが、キョンはもうボロボロで、起き上がるのも苦しそうであった。

「キョン、もういい。早くここから逃げるぞ」

俺は何度も立ち上がろうとするキョンにそう優しく言う。しかし、キョンはブンブンッと首を振った。

「それは駄目だ、タケゾー。あんなのを放って置いたら、みんな危ない。……それに、タケゾーが安心して国につけなくなってしまうだろう」

「キョン……」

そう言ってニッと笑って見せるキョンに、俺は言葉がでなくなってしまった。でも、辛そうなのは変わらない。そこで、ふと一つの方法を思い出した。

「キョン、俺の血を飲め」

「なっ何を言っている」

「キョンシーは吸血種のモンスターだからな。人間の血を飲めば大幅に回復できる」

「だが、タケゾーはそれでもいいのか?貧血になってしまうぞ」

キョンの心配げな表情に、俺は微笑で返す。

「これからあれに殺されるよりいいだろ」

俺につられキョンも上を見上げれば、竜状態の魔獣が止めを刺そうと大きな炎を出していた。俺は左腕をキョンの前に差し出す。キョンはそれを見ると、覚悟を決めたように頷くと口をゆっくり開け、ガブッと噛み付く。

「うっ……」

突如、猛烈な痛みが走るがぐっと堪えた。キョンは構わずジュルジュルと俺の血を吸い続けている。その時魔獣は今だと思ったのか、炎を俺たちめがけて放った。俺は一人それに気づくと、ぎゅっと目を瞑る。ドッカーンという衝突音で目を開けると、なんとキョンがサイボーグな右腕でバリアを張っていた。

「おぉ……!パワーがみなぎってくる!ありがとうなタケゾー!!」

そう叫ぶとキョンは勢いそのまま魔獣の元へすっ飛んでいく。魔獣はグルル……と上がってきたキョンに獣のような威嚇をして、口から連続で炎の球を飛び出させた。しかし、キョンは迫りくる炎の球に笑みすら浮かべ、次々と球を躱す。そして魔獣に近づいていった!魔獣は体をうねらせながらキョンから逃げるように動き、炎の球を出し続ける。右、左、右、はたまた右とキョンは空中で軽々と球を躱しながら魔獣に向かって突き進んでいく。そして、右手を縦にすると

両断絶剣ソンエンチェン!」

と言って魔獣の胴を真っ二つに切る!

「すげぇ!」

それを地面で見ていた俺は、思わず感嘆の声を上げた。魔獣はグワァァァと叫びながら切られた尾と共に下に落ちていく。魔獣はやけくそか、落下途中に炎の球を出すと、俺に向かって放とうとした。

「させないっ!」

キョンは即座に緋色の球体を作ると、

「超スーパー奥義!」

と叫んでそれをだんだんと巨大化させる。

衛星潰衝ファンソーシー!!!!」

そう目一杯叫んだキョンは思いっきりその球体を魔獣にぶつけた。魔獣はその球体に押され、地面に激突すると、その球体と共に爆発した。

「すっ凄すぎるだろ……」

気が抜けたのか、それとも圧巻したからなのか、俺はその場にへたり込む。思えば、モンスターの戦っているところを見るのは生まれて初めてなのだ。しかも間近でなんて、刺激が強すぎる。

「タケゾー!」

その時、降り立ったキョンが嬉しそうな顔をしてやってきた。

「やった、やったぞタケゾーっ!キョンと二人で倒したんだっ」

やったやった、と楽しそうに踊るキョンに、俺も自然と笑みが溢れる。

「そうだな、……やったな」

「そうだろう、見たかタケゾーっ。キョンはやればできる子なんだ!」

「自分で言うなよ」

そう苦笑まじりに返すと、俺はゆっくりと立ち上がった。

「さて、そろそろ進むか。道のりはまだまだ遠そうだし」

「そういえば飛んでいる途中、大きな壁が見えたぞ」

「マジかよ!」

「まさかあれが国か?最近の国は、壁で囲まれているのか!」

「つくづく思うけど、お前って絶対この時代の奴じゃないだろ」

さっきも古代生物の姿を見てはしゃいでたしな。だが、それについて聞いても記憶喪失だから憶えていない、と言われるのは目に見えているので黙っておく。

「では国も間近であるし、キョンは休むっ」

キョンはそう言うと、ドサッと地面に横になる。

「はっ!?フツー行くところだろ!」

「キョンは疲れたんだっ。少しぐらい良いだろうっ」

そのまま地面で寝ようとするキョンを、流石の俺でも見過ごせなかった。

「お願いだ、キョン。早く行くぞ」

「フンッ。誰がお前のお願いなど聞くかっ。キョンは……ってあれ?」

「え?」

なんとキョンは口では反論しておきながら、起きて進もうとしていた。これにはキョンも、そして俺もびっくりである。

「なぜだ!?体が勝手にっ」

「まさか……」

俺は試しに、キョンに命令してみることにした。

「右、左、ジャンプ、一周回る」

すると、キョンが面白いほど俺の言った通りに動くので、俺は慌てて噛まれた左腕を見る。すると、そこにははっきりとモンスター使いの証である紋章が刻まれていた。

「全く何が起きているんだ!タケゾー、キョンに説明しろっ」

キョンが我慢できないといった顔で、俺に詰め寄ってくる。それに俺は顔を青くし震えながら、こう返した。

「どうやら俺たち……。パートナー契約を結んでしまったらしい」

「……え」

キョンは素っ頓狂な声を上げると、何か気づいてしまったのか、次には大声を出した。

「えぇぇぇぇぇぇ!!!」

こうして、俺たちの物語はようやく幕を上げた。だが、これから多々起こる事件に巻き込まれてしまうことを、その時の俺らは知るよしもない。


続く・・・!  

次回→②始まりの地、ロザーナ帝国〜入学試験を突破せよ!〜上



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