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「……誰が剣を使うって?」
王都の武器屋を巡って既に五軒目。ウィークは訝しむような店主の視線を受けて苦笑いを浮かべていた。
「その、僕に剣が必要で」
「その命力、秘匿してるわけじゃないんだよな?」
「今の命力が僕の全部です」
本日五度目となる言葉を疲れたように吐き出してウィークは項垂れる。店主から返ってくる言葉は、知識の加護がなくても既にわかっていた。
「なら売れる剣はないね。うちには命銀製の剣しかないから、その命力じゃそこらの草も切れないよ」
「そう、ですよねぇ」
言い方は多少違えど今までの店でも言われてきた言葉にウィークは困ったように頭を掻いた。
「命銀は注がれた命力に応じて硬さや鋭さを増す。けどね、それは一般的な十代の命力でやっと使い物になるもんなんだ。悪いことは言わないから、その命力で戦おうなんて考えるんじゃあないよ」
「えっと、わかりました。じゃあ、失礼しました」
店主が眉を寄せて見つめる中、ウィークは曖昧な笑顔を浮かべて店から出て行く。これまでもこの調子でウィークは店の人に心配されて剣を買うこともできずに去るしかなかったのだ。
「あっ、おかえりなさい。ここもだめでしたよね?」
店を出たウィークに、少し苦笑いを浮かべたナレーが声をかけてきた。
ウィークは疲れた顔でナレーをじぃと見つめて、深く息を吐き出す。
「その通りです、ナレーさん。そこまで知ってるなら、加護で剣を買える場所とかわからないんですか?」
「わかりますよ。でも、結局剣を買うためにはこうやって巡るしかないんです。さっ、次が最後ですから行きましょうか」
ウィークの訝しむような視線がナレーに突き刺さる。けれどナレーは気にした様子もなく、貼り付けたような笑みを浮かべてウィークの手を引いた。
ぐいと引かれた手に持っていかれるようにウィークは一歩踏み出して、困ったように笑う。ナレーの力にも抗えないほどにウィークの命力は弱かったのだ。
「わかりました、わかりましたよ。行きましょう」
引かれる手のままに、足を少しもつれさせながらウィークはナレーに着いて行く。そうして向かった先に辿り着いたのは、今までの店と同じ様な武器屋だった。
「ここです。ここに入れば、剣を買えますよ」
ナレー手を離して武器屋を指し示す。その目の紋章を輝かせて断言するナレーに、ウィークは小さく頷いて武器屋の中へと入って行った。
「失礼します」
「いらっしゃい。……って、その命力。あんた、今噂の坊主か?」
店に入るなり、店主の睨む様な鋭い視線がウィークに突き刺さった。