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「それで、貴方の質問ですよね。まず貴方にして欲しいことですが、異形との戦いで目立つところに立っているだけで大丈夫です。貴方を英雄として立たせることで異形の敵意を集め、全員を弱体化させるという作戦ですからね」
馬車が着々と王城へと近づいていく最中、ナレーはウィークの疑問を解消するために流れるような説明を始めた。
「でも」
「自分でいいのかと不安なのでしょう。ですが、私は貴方が異形の王を倒す未来まで見えています。ですので役目は果たせますから安心してください」
ウィークが質問を言うよりも先に、目の紋章を輝かせたナレーはその答えだけを絶え間なく述べる。
「その旅には」
「はい、私も着いて行きますよ」
「なら、ナレーさんの」
「好きな物ですか? 食べ物なら甘い物全般ですね。趣味は読書で、特技は暗記です。そのせいで、知識の紋章を得ましたから。っと、もう王城ですか。どうにか貴方の聞きたいことには全部答えられましたね」
汗を拭うような仕草をしてふぅと息を吐くと、ナレーはやりきったような表情で微かに微笑む。
だがウィークには聞きたいことがもう一つだけ残っていた。それは、何故ナレーが希望のない諦めた目をしているのかということ。
問うべきではないのだろうとも思う。それでも、未来が読めると言う同い年の少女が希望を持てない理由がウィークは気になってしった。
「もう一つだけ、質問したいんですが……」
「答えませんよ」
瞬時に返ってきたのは明確な拒絶だった。ナレーの表情は暗く、ウィークを見る目は冷たい。
だがそれも一瞬のこと。一度大きく息を吐き出して、ナレーは無表情に戻った。
「はぁ、どの未来でも貴方はその質問をしようとしますね。私は未来を読めるだけで、貴方が何を思って質問しているのかは知りません。けれど、それだけ貴方にとって重要な質問だというのはわかります。ですから、一言だけ。未来に希望なんてないからですよ」
何処か遠くを見つめるように視線を逸らして、ナレーは自嘲するように笑う。その姿は痛ましく、そして救いを求めているようでもあった。
「ナレーさん……」
言うべき言葉が見つからず、ただウィークはナレーの名前を呼ぶ。
ウィークはナレーを知らない。救うなどと傲慢なことを考えられるほどの力を持っているわけでもない。だから、ウィークは胸中に渦巻く言葉達を全て飲みこんだ。
「そんなに気にしないでください。貴方にはどうしようもないと、私は知ってますから」
ナレーの視線がウィークを冷たく射抜き、外に向けられる。
もはやこれ以上話すこともないと突き放す態度にウィークはただ小さく息を吐き出した。