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「あれが王様のいるお城かぁ……。凄いなぁ」

 馬車に揺られてかなりの時間が経った頃、ウィークは窓から大きな城を見つめて呆然と呟いた。

 小さな村で暮らしていたウィークにとって城はまるで村一つが建物になったかのように壮大で、その存在感に圧倒されていた。

「ふぁ……。ここは?」

 初めて見るものばかりの王都の景色にウィークが目を輝かせて外を眺めていると、ウィークの膝の上でナレーが欠伸を漏らして目を覚ました。

「おはよう、ナレーさん。疲れは取れました?」

 ウィークの見下ろす視線をじっと見返して、少し呆けた表情だったナレーがはっと目を見開く。

 がばっと音が鳴りそうなほどに素早く体を起こしたナレーは、少しだけ頬を赤く染めてウィークの対面に座り直した。

「お、おはようございます。その、膝を貸してもらったみたいですね。ありがとうございました」

「気にしなくて大丈夫ですよ。馬車の座席に横になったら、頭を何度も打ちそうで心配だっただけですから」

「そう、ですか。それでええと、今は……」

 ナレーが周囲を見回しながら瞳の紋章を輝かせる。ぺらぺらと紋章の本が捲れ、その度にナレーの表情は落ち着きを取り戻していった。

「なるほど。読んでいた中でも一番長く眠っていたみたいです。足も疲れましたよね、ごめんなさい」

「いえ、それは大丈夫ですけど……」

「けど? あぁ、なるほど。こうなることも知ってたんじゃないかということですね」

 少し言葉に詰まったウィークを紋章の輝く瞳で見透かしナレーは小さく息を吐く。

「知ってましたよ。避けることもできました。けれど人の生死は関わってなかったので、寝たいだけ寝ちゃったんです。望む未来に導こうとするのは、凄く神経を使いますからね」

 ナレーはそこで一旦言葉を止めて、ウィークを見つめる。何かを考えるように一瞬の間が空いて、ナレーの頬が赤く染まった。

「でも、寝顔を見られるのがこんなに恥ずかしいとは思ってませんでした」

 両手で顔を隠すように覆いながらナレーがぼそりと呟く。その手の隙間から垣間見えるナレーの瞳は、潤んで煌めいていた。

「うぅ、不覚です。ですが、起きたことは仕方ありません。気を取り直して貴方の質問に答えますから、その……少しだけ待ってください」

 ナレーは手で顔を覆ったまま、心を落ち着けるように数度深呼吸を繰り返す。

 湿気混じりに少し荒々しかった吐息が、ゆっくりと深い呼吸へと変わった。

「もう、大丈夫です。待ってくれてありがとうございます」

 手をおろしたナレーの顔は、いつも通りの無表情に戻っていた。

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