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「必要だったとは言え、貴方を不安にさせてしまいましたね。ごめんなさい、ウィークさん」
ナレーの手が泣きそうに顔を歪めるウィークの頭を優しく撫でる。同い年のナレーに慰められてウィークは少し気恥ずかしく思いながらも、心が落ち着いていくのを感じた。
「もう、大丈夫です。ありがとうございました、ナレーさん」
しばらく黙ってナレーの手を受け入れていたウィークはすっと後ろに身を引き、恥ずかしそうに微笑む。
「そうですか? では、引き続き王城に向かいましょうか。あと少しで後続の馬車が来ますので」
ナレーは相変わらずの無表情のまま手を引っこめると今まで通ってきた道を振り返る。
つられてウィークも振り返れば、丁度複数の馬車が見えるところまでやってきたところだった。
「これも全部予定通りなんですか?」
頃合いを見計らったような馬車の登場に少しだけ呆れてウィークは声を漏らす。
「そうですよ。全部知ってましたからね」
瞳の紋章を輝かせたナレーは淡々と呟いて、少し疲れたように息を吐き出した。
「この後に貴方が何を聞きたいのかも私は知ってます。けれど、答えるのは少し待ってもらってもいいですか? ここまでは、失敗するわけにもいかなかったので気を張り過ぎてましたから……」
ふらっと、ナレーの身体が傾く。慌ててウィークはナレーを支えるように抱きしめ、その顔を覗き見て息を呑んだ。
血の気が抜けたような蒼白の顔に、安堵が少し滲んだ表情。抱きしめたナレーの身体は怯えるように微かに震えていた。
「ナレー様は起きることを知ってはいますが、かよわい少女であることには変わりありません。どうか、しばし休ませてあげてください英雄様」
隣で様子を見つめていた御者が跪く。
ウィークは小さく頷き、可能なだけの命力を巡らせてナレーの身体を抱き上げた。持ち上げたナレーの身体は異様なほどに軽く、けれど心には重くのしかかる。
今感じる重みくらいは軽々と背負える人になりたいとウィークは思った。
「ナレーさん。僕、貴方の力になれるように頑張りますね。貴方がこの先、無理しなくてもいいように」
「……ありがとうございます」
抱えられたままウィークを見つめてナレーは囁くように呟く。そして、少し困ったようにナレーは目を逸らしてから瞼を閉じた。
「このまま、休んでいて大丈夫ですよ。元気になったら、色々聞かせてくださいね」
ウィークはそれだけ言うと、できるだけナレーを揺らさないように抱えて馬車を待った。
いつの間にか、ナレーはウィークの手の温もりに包まれながらすうすうと寝息を漏らしていた。