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剣を買った翌日、ウィークとナレーは馬車に乗せられて軍隊と共に国境付近へと駆り出されていた。
がたごとと揺れる馬車の中ではウィークとナレーが隣り合って座り、対面にはオーダンが沈黙を保ちながら瞑想をしている。
オーダンの溢れる命力の圧に気圧されてウィークが息苦しさに気を失いそうになり始めた頃、ナレーが目の紋章を輝かせて口を開いた。
「ここで止めてください。間もなく、ここが戦場になります」
その一言に、オーダンは目をカッと開くと力強く床に足を打ちつけた。ダンッと鈍い音が馬車から抜けて広範囲に響き渡る。
続けてオーダンがダダッと短く床を打ちつけた音が響くと、ウィーク達の乗る馬車も含めた全ての隊列が急停止した。
「ふむ、間もなくとはどれくらいだ?」
「今から一時間と僅かです」
「いいだろう。それまで部下達には準備を整えさせる」
オーダンが床をダンッと打ち鳴らし立ち上がる。すると、その時を待っていたとばかりに馬車の扉が外から開けられた。
「貴様らは馬車で待機しておけ」
ちらとだけ振り返って、オーダンが馬車から降りる。
馬車の中には沈黙が戻り、その外では兵士達が慌ただしく武器の用意や陣の形成を始めた。
「あぁ、苦しかった」
オーダンが離れて少しした頃、命力の差による圧力から解放されたウィークは胸を押さえながら深く息を吐き出して肩の力を抜く。
息を整えるようにしばらく深呼吸をしながら、ウィークは兵士達が綺麗に並んでいく様子を馬車の窓から見つめた。
着々と戦の準備が進んでいく度に、ウィークの顔が青く染まる。もう戦いまで時間がないと思うと、ウィークは不安で押し潰されそうな気持ちになった。
「不安ですよね。でも大丈夫ですよ。この戦いでは重傷者も死者もでませんから」
「そう、ですか」
先回りするようなナレーの言葉を聞いて、ウィークは深く息を吐き出す。
ナレーの言葉は信じていいのだと理解していても、ウィークの胸を埋める不安は消えることはなかった。
「何を言っても、貴方の顔が真っ青なままなのは知ってるんです。それでも、言いますね。今日、貴方は私達の英雄になるんです。だから大丈夫ですよ」
そっと手を重ねてナレーが囁く。
ウィークはそれに返事することもできないまま、ぐるぐると渦巻くような腹の痛みを誤魔化そうと唇を噛んだ。