プロローグ
視界が赤く染まる。
胸が熱い。
目の前には血に伏す一体の化け物。妖と呼ばれる、超常のような存在だ。
その妖と俺は戦い、そしてギリギリで勝利を収めた。
否、全身の傷を見る限り到底勝利とは言い難い。引き分け、その言葉が最も適切だろう。
「……く……そ」
必死に身体を起こそうと腕に力を入れるが、もう指先一本も動かない。
視界が霞んでいき頭の中に過去の映像が流れていく。
これが走馬灯。
なかなかに感慨深いな。
そんなことを考えつつ、やがて脳裏に浮かぶ映像は俺が五歳の頃の姿を映した。
満月が浮かぶ夜。
縁側に俺と並んで座る義姉。
「俺は最強になる」
「……そう。それなら、困った時はタケルに助けてもらおうかな」
「任せろ!」
微笑みながら俺の頭を撫でる義姉。
今はもう隣に並ぶことなど到底出来ぬほど遥か高みへと上り詰めてしまった義姉との大切な約束だ。
そうだ。
こんなところで死ぬわけにはいかない。
俺が目指すのは最強。いかなる理不尽も苦難も打ち破る存在だ。
歯を食いしばり、手で地面を掴む。
その時、不意に頭上から声がした。
『最強か。いい夢だが、まだまだ色んなものが足りねぇな。なあ、クソガキ。力をやろうか?』
どこの誰のモノかも分からないその声に、俺は答えを返した――。
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