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『Angel's Right Arm』3/3

「ルフトラグナ……力を貸して! ────顕現ッ!」



 右手を伸ばして、行く先へ魔法陣を展開すると私はくぐり抜ける。

 私たち自身を媒体に顕現させたのは銃だった。

 その黒い長銃に、聖王剣を纏わせる。


 《星色の恒銃剣》……生きることを願って生まれた神器。

 これぞまさに最終決戦形態と言ったところだ。


 私はそれを握りしめ、一直線に黒骸の額目掛けて銃剣を突き出す。

 光翼を羽ばたかせ、光にも追いつけそうなスピードで宇宙空間に侵入する。



「【必殺魔術(モルトバート)】ッ!」



 ちょうど額の中心に刃が突き刺さり、直後凄まじい衝撃波が起こって黒骸は仰け反る。

 しかしそれと同時に、黒骸の背から光線が放たれる。



「くっ、多いしデッカい! ならこっちも、フルチャージで撃つッ!」



 銃剣を構え、自動追尾の光線を狙うとトリガーを引く。



「【クリンゲル・シックザール】ッ!」



 銃口からは透明色の弾が発射され、光線を次々と相殺していく。

 それと、ルフトラグナの右腕があるからだろうか、運命がハッキリとわかる。

 何をどうすれば望むものになるのか、理解出来る。

 言うなれば半魔半人半天種……ルフトラグナの右腕を移植したことで、天使にもなりつつある。

 余計に自分が何者なのかわからなくなる……なんて心配はもうない。


 私は私、たった一人の私だ。



「って、やばっ!? そんな骨自由に伸びるの!?」



 しかし光線を防ぎきったのは良いものの、黒骸の骨がまるで触手のように伸び、私に迫ってくる。

 避けきるのは難しそうだ。



「────【時結魔術(ホーロフロスティーギ)】!」



 銃剣を振り、さらに骨を砕くための射撃を利用してヘルツマギアを発動させる。

 射撃音が不思議と音色に変わり、周囲一帯の時が停止される。



「このまま接近して……! いや────ッ!?」



 やはりそう簡単にはいかない。

 相手は魔神……さらに言えば魔の根源。

 時間停止の解除など朝飯前なのだろう。


 凍結した時は溶かされ、再び動き出した時間は黒骸のみを加速する。

 星と同等の巨体から伸びる手が、その大きさからは想像も出来ないスピードで私を殴り飛ばす。

 咄嗟の防御も意味をなさず、衝撃が強すぎて体勢を変えることも出来ない速さで吹き飛び、渾沌色の空を突き破って本物の陽の光を浴びる。



「うぐっ、あッ……! た、耐えられた……けど……規格外すぎる……っ! どうにかして魔神化を解除しなきゃな……でもこの手のボスはどっかにコア的な弱点があるものでしょ!」



 天使と化しているからだろうか、それとも私が私で在るからだろうか、なんだか力が湧いてくるが……それでもあの魔神には届かない。

 私がここまで来て、尚も最果ての存在であるのはさすが神と言ったところか。



「さて、早く戻らないと─────」



 そうして翼を広げ、戻ろうとした瞬間……目の前の景色が変わり、口を開けた黒骸がそこにいた。



「強制転移……!? 【転移魔術(トランス)】!」



 噛み砕かれないよう距離を離すべく、こちらも転移するが……また一瞬で元の位置に転移させられる。


 時間停止も解除されるため意味がなく、ただ喰われるのを待つだけ────?



「そんな運命なんて……ッ!」



 《星色の恒銃剣》の刃が強く輝き、ありとあらゆる死の運命を断つために、私は()()を見据える。

 死は絶対に許さないと決めた。

 私も、シリウスも、もう誰も死ぬことのない運命へ辿り着くと決めた。



「響け! もう、誰も死なせないためにッ!」



 【音色(トーン)】から変化した【響星魔法】は、その大本であるシリウスの【神星魔法】とほとんど同じものだ。

 魂や魔力の操作を基本としたその魔法は、カラーマギアのようにイメージで大抵のことが出来る。

 それ故に、シリウスはアニムスマギアや魔物という新たな概念を生み出せた。


 しかし、私に何かを生み出すだけの力は無いだろう。

 だが、確かにあるこの音だけはきっと響かせる。

 生み出せずとも、概念に干渉することは出来るはずだ。

 今まで私は、運命という概念と隣合わせだったのだから。



「さぁ! 【クリンゲル・シックザール】ッ!」



 刃を振り払うと同時に、トリガーを引いて透明色の弾丸を放つ。

 その目に捉えた運命を、弾丸と刃で殺す。


 『死』という無数の運命、しかし、たった一つの概念。

 死を殺すことで生まれる運命は、もはやどう足掻いても私の勝ちだ。

 死なないのだから蘇生も意味がないし、【神星魔法】などの攻撃も、死に直結しない。


 【響星魔法】による概念干渉に、ルフトラグナから借りた運命を決める力が加わることで為せる、不死よりも死を遠いものとする力。

 ただその時を生きていたいと願った、最終的な私の力だ。



「これがッ! 私たちの運命だァァァーーッ!!!」



 刃がぐにゃりと変化し、急激に膨張して巨大な剣となる。

 今まさに黒骸に喰われようとしているその瞬間に、私はありったけの力で剣を突き刺した。


 刃が黒骸の頭を穿ち、後頭部から突き出る。

 そして私は《聖王剣・プロテアス》と分離した《星色の恒銃》を右手に、剣の上を翔ける。

 頭が穿たれた衝撃で星を手放した黒骸は、尚も私を睨み続けるが、そんなのお構いなしに銃口を向けた。



「──────〖|そして、最果ては失われた《ディーオエスティンギ》〗──────」



 刹那、撃ち出された弾丸は黒骸の額へ────《サイハテ》を貫く。


 貫いた瞬間に黒骸は声にならない悲鳴をあげ、塵のように崩壊して、消滅していく。

 それと同時に、役目を終えた《星色の恒銃》も消え、《聖王剣・プロテアス》が私の元に帰ってきて、指輪として右手の指に嵌った。


 ……が、その瞬間。



「【紫色魔法(ドゥンケルア)】ッ!」



 殺気を感じて振り返ると、黒い触手のようなものが襲いかかってきた。

 咄嗟に指輪から短剣と化し、さらに腰の青い装飾の鞘から短剣を抜いて対処する。


 攻撃してきたのは黒骸でも、サハラ・レイの体でもない、あのスライムのようなものだった。



「シリウスッ!? ま、まだやる気なの!? 《サイハテ》は壊した! もう神にはなれないッ!」


「まだ、まだだ! 諦めるわけにはいかない! ここまで来て、皆の想いをドブに捨てるような真似はしたくないッ! クソッ! 最果ての存在へ至ったはずなのにッ! もう少しで、またベルに会えたのにッ! ────僕でもベルでもないお前が! 邪魔をするなァァァァァ!!!!」



 赤、青、黄、水、緑、茶、白、紫……八色、八属性のカラーマギアが同時に放たれる。



「─────ぐぅッ!?」



 避けることは間に合わず、それを受け止めるが……今までに感じたことのない質量だ。

 多色が螺旋を描き、やがて混じり合って黒くなる。

 受け止めた短剣は砂に変わり、聖王剣には黒色が移って、形を維持出来なくなり崩壊する。



「人々の悪意を燃やすことで生まれるこの力ッ! 全ての悪を受ける僕を、お前が止められるかッ! 殺せなくても、致命傷を負わせてお前の力を喰らうッ! そうすればきっと……きっと再顕現も出来るはずだ! まだ終わりじゃないぞッ!」


「いいや終わりだよ! でも、納得いってないって言うなら、納得のいくようちょっとばかし相手してあげる! 終わったこと、みんなに伝えなきゃだしねっ!」


「何を……いや、なんだ!? 吸われていくッ!? 【神星魔法】と神色の力を纏めあげて撃ち放ったというのに……!」



 放たれたカラーマギア、恐らくシリウスの全ての魔力が込められたそれを、同じ力をもって変換して吸収していく。

 全て吸収し終え、私は手のひらを広げて強くイメージする。


 そう、終わりだ。

 終わったことを伝えるために、大きく、美しい一音を響かせよう。



「シリウス。あなたには特別にもう一つの音を聴かせてあげるよ。一体一……私たちだけの音を────」



 防音空間を私とシリウスの周辺にだけ展開し、手のひらにシャボン玉のようなものを生成する。


 両手をお椀のようにしてシャボン玉のようなそれを上にたゆたわせると、フッ……と息を吹きかける。

 すると、輪郭が輝き、ゆっくりと舞い上がる。


 これが、()()()()()()だ。



「弾けて響け────!」



 パッと小さな星が弾けると、世界中にベルの音が響き渡る。

 ニンフェの森にも、メアーゼの海にも、ベスティーの大地にも、ヴァルンの街にも、光芒が差す遺跡にも────。

 全土に響き、私は勝利した(生きている)を知らせる。


 そして、私とシリウスには別の、誰にも聴こえない音がその魂に響いた────。

そして、最果ては失われた。


シリウスからは────。




*次回、終。

ChapterⅩ『Fate For one to Arrive』

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