答え
リンネ達の数十メートル後方。
魔龍の咆哮によって散らされた鳥の大群を見上げたオーバは、シンピに声をかける。
「今ならジジを出せる。あんた、乗せてやるから一度戻るべきだ」
「……しかし」
シンピは迷っていた。
強烈なオーラを纏う魔龍と対峙する弟子達を前に、師匠である自分が戻っていいものか、と。
「今のあんたは魔力が枯れてて戦えないんだろ? そんなら安全な場所まで撤退して回復を待つべきなはずだ」
「それは、その通りだが」
「ここで犬死にする意味はねぇ。大人しく下がれ」
明らかに年も立場も上であるシンピに対して全く物怖じせずにオーバは言い切る。
しかしその言い分が正しいことは、明らかであった。
「……君の言うとおりだな。わかった、頼むよ」
観念して、シンピは大人しくジジに乗ることに決めた。
オーバとシンピが緊張感のある会話をしていたからだろうか。
ジジが心配そうに鳴いたのが、シンピには少しうれしく思えた。
「それじゃあ行くぞ……ちゃんと掴まれよ」
「ああ、頼む」
飛ぶ直前、シンピはリンネ達を見やる。
――どうか、無事で
今のシンピには、そう祈ることしか出来なかった。
「何をするつもり……か」
もう一人のレオンが不気味に笑う。
リンネはその笑みに恐ろしさすら感じていた。
「安心してほしい。君たちに迷惑はかけないよ……ただ、そうだな。町を幾つか破壊させてもらおうかな」
「あ? 何言ってんだてめぇ」
レオンを見るビーディーの視線が鋭いものに変わる。
「言ったとおりだよ。町を幾つか破壊する。そうすればウルフも動かざるを得ないはずだ……そこで奴を殺す」
リンネがゆっくりと口を開く。
「それが、あんたの言う悪の滅ぼし方?」
「そうだ。悪を滅ぼすためには、己も悪となるしかない」
「……そう」
リンネは呟き、レオンを見据える。
「あんた、言ったわよね? 悪とは、何によって打ち倒されるものなのか……その答えを聞かせてほしいって」
もう一人のレオンが答える。
「……たしかに言ったな」
「その答え、聞かせてあげるわ。今、ここで」
リンネは、思い出していた。
暗いキッチンで、ベルと話したことを。
『私はリンネさんのことを悪だとは思いません。感謝だってしてる。リンネさんがどう思うとそれは変わらない』
聞こえてくるベルの言葉は、リンネにとっては救いの言葉で。
――ありがとう、ベル
少し微笑んでから、リンネは再度口を一の字に結び、レオンを見やる。
答えは、もう決まっていた。
「悪を滅ぼすのは……きっと、強さ。それが悪である必要はない。だから――」
リンネの蒼い刀身が、赤の世界で輝いた。
「――あんたは、ここで止める」




