対峙するは蒼
立ち上がった魔龍から放たれた暴風の如き咆哮が森を支配する。
天上を覆っていた鳥の大群はあまりの衝撃に散り散りとなり、赤と黒の狭間にある空が顔を出した。
リンネは柄にもなく天を仰ぎ、世界の終わりのようだと感傷的になっていた。
「ははは! これが魔龍か! 良い……良い力だ!」
もう一人のレオンは先程よりも強烈なオーラを纏う魔龍を前にして、勝ち誇ったように笑う。
その姿は正に魔獣王と呼ぶに相応しい、恐れられるべきものだった。
「リンネ、立てるか」
ビーディーが駆け寄ってきて、倒れているリンネに手を差し伸べる。
リンネは「ええ」とだけ答えてその手を取った。
「ララは?」
「ここにいるよ。それより……あれ、やばいよ。かなり」
ビーディーの背後にいたララがそう言って魔龍を見やる。
レオンの眼と同じ赤黒いオーラを放つ魔龍はそれに応えるようにリンネ達三人へと視線を合わせた。
――殺される
そう感じたリンネ達は即座に戦闘態勢に入る。
魔龍もそれを見て、戦いに身を委ねんと纏うオーラを一層強くする。
しかし――
「待て」
レオンが言うと、魔龍はそのオーラを瞬時に消した。
「はぁ……はぁ……」
視線を向けられただけ。
ただそれだけのはずだった。
しかし、言い表せない程の焦燥と恐怖がリンネを襲っていた。
「……戦わないのか?」
ビーディーがもう一人のレオンに問う。
レオンは微笑を携えてそれに答えた。
「戦う必要がないだろう? 俺の目的は悪を滅ぼすことだ」
「悪を滅ぼす?」
予想外の発言にビーディーは眉をひそめる。
そしてその隣ではリンネがあの日のことを思い出していた。
『悪を滅ぼすのは正義か? ……違う。悪を滅ぼすのはいつだって別の悪だ』
『リンネ、よければ考えておいてくれ。悪とは、なにによって打ち倒されるものなのか……次に会う時、その答えを聞かせてくれ』
あの日、もう一人のレオンがリンネに言った言葉。
それがリンネの脳内で反芻される。
「……何をするつもり?」
リンネの問いに、レオンは答える。
「悪を滅ぼす、たった今そう言っただろう」
「そうじゃない」
リンネは断じる。
「悪を滅ぼすのは悪……そういったのはあんたよ」
リンネが顔を上げる。
その眼の蒼は深く、美しく輝いていた。
「もう一度聞くわ。あんた、何をしでかすつもり?」
レオンは少し驚いて、その口角をニヤリと吊り上げた。




