シンピという魔女
「そういえば、シンピさんって何者なんだ?」
ひとつも成果のなかった〈殺気〉を扱う練習を終えて、二人は夕食の準備をしていた。
「ああ、そういえばあんた、なにも知らされずに連れてこられたんだったわね」
ハムを切る手を止めずに、リンネは応える。
今日の夕食はハムとパン、それとワインに決めていた。
「師匠はね、あんたの親の元パーティーメンバーなのよ」
「俺の親って……魔獣王か」
リンネの口から飛び出したのは衝撃的な事実だったが、ここまでくるとレオンもあまり驚きはしなかった。
「そうよ。ていうかあんた、驚かないのね」
「いや、驚いたよ。だけど今日は驚くことばかりだったから慣れたっていうか……」
「それはなんというか……お疲れ様」
こういったリンネの言葉の節々に、レオンは優しさを感じていた。
口調こそキツめだが、根は優しいことがよくわかる。
きっとそれを口にすればリンネは否定するのだろうが。
「ところで、パーティーメンバーってことは元冒険者なのか」
「そうよ。それも随分と有名な冒険者だったみたい。当時のことは私も知らないけど」
「おや、噂話か」
聞こえてきた声に振り向けば、厨房の入り口にはシンピが立っていた。
「師匠、ご飯ならまだできませんよ?」
「いや、夕飯は楽しみだけどその用じゃない。レオンの修行に進捗があったか聞きたくてね。どうだ? 〈殺気〉は上手くコントロールできそうか」
自分の話が出てきて、レオンは少しバツが悪そうに目を逸らした。
「いや、成果はゼロでしたね……せめてコツが掴めればよかったんですが」
シンピはいつもの無表情で「やはりか」と呟いた。
「なに、そんなにすぐに扱えるようになるとは思っていない。だがそうだな、コツか……」
少し考えて、シンピは思いついた。
「よし。それじゃあレオン、冒険者になれ。リンネも一緒にな」
師匠からの唐突な指令に、二人はポカンと口を開ける。
その数秒後、魔女の家には驚愕の叫び声が響いた。




