強くなりたい
「こ、これ、俺が持ってきた……」
「ああ。お前が持ってきたボロボロの短剣。治しておいた」
レオンは手元にある短剣を見やる。
その刀身は美しい怪しさを放っており、レオンの知っている古びた短剣の姿はなかった。
「お前の言う通り、それは間違いなくマジックアイテムだ。打ち直す前は朧気だった魔力も、今はかなりはっきり感じる。私は魔法の専門家じゃねぇから確かなことは言えんが……そんな怪しい魔力、他で感じたことねぇ。かなりのレアもんだ」
ビーディーはつらつらと短剣の素晴らしさを語る。
しかし、レオンの驚きはまた違う点にあった。
「……なんで治してくれたんですか」
「なんでって、治してくれって言ったのはお前だろうが」
「そうじゃありません」
レオンが真っ直ぐにビーディーと目を合わせる。
「俺は、ビーディーの交換条件を満たしていません。なのに……」
「満たしたよ」
言い切ったビーディーは、レオンの顔に煙を吹きかけた。
独特の香りがして、レオンは少しだけむせた。
「な、なにするんですか!」
「別に~?」
ビーディーはからかうようにケラケラ笑って、深く腰掛けた。
「お前は条件を満たしたよ。金、男、酒、力、飯……その中の力をお前は示して見せた。あんだけ命張ったんだ。十分だよ。ま、今から抱いてくれるってんならあたしは大歓迎だけどなぁ?」
そう言ってビーディーはまたニヤニヤと笑う。
レオンは、彼女の魅力の一つに触れたように思った。
「ありがとうございます」
「……おうよ」
レオンが焦ると思っていたのか、予想外の反応に戸惑ったビーディーは素っ気ない返答をする。
彼女の頬は、ほんのりと赤く染まっていた。
それから二日後。
歩けるようになったので、レオンはララに会いに行くことにした。
ビーディーの話によると、メルを逃がしたことについてララは随分と気に病んでいるらしかった。
診療所に出向いたレオンはララのいる部屋に案内される。
受付で英雄のような扱いを受けたのが、レオンはなんだか気恥ずかしかった。
――ああも大袈裟に褒められるのは慣れないな
「ララ、入るぞ」
ノックして声をかけると、レオンはドアを開ける。
部屋に入ると、窓辺のベッドに腰掛けたララがレオンを見ていた。
「レオン……」
ララの体には痛々しい程に包帯が巻かれており、レオンはそれが心苦しかった。
「六日ぶりくらいかな? なんか久しぶりだな」
だけどレオンはその辛さを表に出すことなく、努めて明るく話しかける。
しかしそんなレオンと対極を為すように、ララの表情は曇っていた。
「うん。久しぶりかも……ねぇ、レオン」
ララが立っているレオンを上目遣いで見やる。
その瞳には涙がたまっていた。
「ごめん……! 私がやるって言ったのに……私……!」
「ララ……」
大粒の涙を流して謝るリンネの頭を、レオンはそっと撫でる。
その手のひらは、暖かかった。
「謝るな。ララがメルを止めてくれたから、ブレンダムを救えたんだ……それで十分だよ」
レオンが言うと、ララは一層涙を流してレオンに抱きつく。
「レオン……! 私、もっと強くなりたい!」
「……ああ。強くなろう」
――そうだ、強くならなくちゃいけない
その時、レオンの脳裏に浮かんだのはもう一人の自分。
〈魔獣王〉のことだった。




