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落ちこぼれの魔獣狩り  作者: 織田遥季
ブレンダムにて
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ブレンダム防衛作戦〈その3〉

 周囲に響き渡る悲鳴。

 その中心には砂埃の中から突如として現れた魔獣達。

 リンネはそれを睨みつけるように見やる。


「トロルが二体にワーウルフが三体ね」


 機動力が高いのはワーウルフ。

 だけど、建物などへの被害を考えれば、パワーのあるトロルも非常に厄介だ。


「まあ、全部殺せば同じなのよね」


 伝う冷や汗をごまかすように呟くと、リンネは逃げ惑う人々の流れに一人逆らって急接近を始めた。

 それを見るや否や、ベルはドグマに呼びかける。


「今すぐ避難誘導を! ここは危険です!」


 ドグマはそれに頷くと、すぐさま声を張り上げた。


「お前ら、避難誘導だ! 女子供を優先しろ! どこに敵がいるか分かんねぇからあんま遠くまでは行かせるな!」


 その号令に、弟子たちは大急ぎで動き出す。

 ベルは彼らの統率のとれように、幾分かの頼もしさを覚えた。


「さ、お嬢ちゃんも逃げるぞ」


「……はい」


 ドグマに促され、ベルは後ろ髪を引かれる気持ちをグッと抑えて住民たちと同じ方向に歩き始める。

 曲がり角を曲がる前に一度だけ振り返ると、人と人の隙間に、戦うリンネの姿が見えた。


「どうか無事で……!」




 リンネはまず、ワーウルフの一匹に近接した。

 トロル程のしぶとさを持たないワーウルフから狙うことで、まずは頭数を減らす算段だ。


「『座標転移(ポイント・ワープ)』」


 呪文によって蒼の剣がリンネの右手に転移する。

 首から数ミリの位置に突如として出現した刀身に対しては、如何に素早いワーウルフでも為す術を持たない。

 魔獣が剣を認識した時にはもう既にワーウルフの首は刎ねられていた。

 その感触に、リンネは一つの確信を得る。


――この剣、凄い


 今までリンネが用いていた剣であれば、同様の攻撃をしてもワーウルフの首筋を切り裂くのみで、殺しきれない可能性すらあった。

 しかしこの剣は違う。

 ただの一振りでワーウルフの首を切断してみせた。

 リンネがちらりと手元に視線を走らせる。

 命を一つ奪ったにも関わらず、その刀身は美しい蒼を失ってすらいなかった。


「これなら……」


 もう二体のワーウルフが闘争心を剝き出しにして飛びかかってくる。

 リンネは呪文を使うこともなく、ただ相手の動きに合わせて剣を振るだけでよかった。

 ワーウルフ二体の胸部が切り裂かれ、派手に血が飛び散る。

 それは正に血の雨のようで、逃げる住民が周囲に残っていなかったのは幸いだったかもしれないとリンネは思った。

 次に襲い掛かってきたのは残ったトロル二体。

 恐れを知らない奴らは、安直にその腕を振り回して攻撃を仕掛けてくる。

 リンネはバックステップで軽く距離を取り、空に剣を放り投げる。

 トロルの視線が剣に集中したその一瞬の隙に、リンネが背後を取る。


「『座標転移(ポイント・ワープ)』」


 その声と共に、空にあった剣は消え、トロルの頭部が代わりと言わんばかりに宙を舞った。


「あと一体」


 リンネは最後のトロルに剣を投げつける。

 トロルは向かってくるそれを腕で振り払おうとするが、リンネにとってその程度は想定内だった。


座標転移(ポイント・ワープ)


 三度目の呪文を唱えると、剣はトロルの腕をすり抜けるようにして哀れな魔獣の眼前に現れる。

 無慈悲な剣は、絶望に満ちたトロルの顎下に突き刺さった。

 苦悶の叫びを上げて、トロルが倒れる。

 こうして、この場で立っているのはついにリンネのみとなった。

 無傷のリンネは憐れむような眼でトロルに近づくと、一切の躊躇なくその剣を引き抜く。

 噴水のような血しぶきが吹き上がり、トロルは絶命した。

 金の長髪を赤に染めたリンネは、悲しげな表情で魔獣の死体に背を向ける。


――もっと苦しませない殺し方ができたはず


 今のリンネに残っていたのは、その悔いだけだった。


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