魔獣の血
「メル……?」
姿を現したメルの瞳は虚ろでレオンを映してはいない。
服装や姿形こそ変わりないが、茫然自失の状態であることは明らかであった。
「メル!」
ようやく会えた最愛の妹のもとへと、レオンは“奴”を警戒することすら忘れて駆け出す。
「駄目! レオン!」
リンネの制止によってレオンは我に返る。
しかしその時には既に、下卑た視線がレオンを捉えていた。
「『殺れ』」
“奴”の声に応えるようにメルが苦悶の声を上げ、彼女の身体は変化を始める。
漆黒の髪は急激に伸び、歯は牙と化す。
そしてその目は、緑に染まった。
「なんだよ……これ……!?」
人間とは思えない変貌を遂げたメルがレオンを見やる。
――“奴”の言葉で変身したってことは魔獣!? でもメルは
「危ない!」
ララが叫び、レオンの前に飛び出す。
同時に、メルもそのかぎ爪でレオンに攻撃を仕掛けた。
レオンを庇うように、ララも自分の爪でそれを防ぐ。
ダメージが入ったのは明らかにララの方だった。
「レオン、私も変身! お願い!」
メルの変わりように動揺していたレオンだったが、兎にも角にもララを強化しなくてはならないということはすぐに理解できた。
「わかった……! ララ、『勝て』!」
レオンの言葉で、ララも変身を遂げる。
爪や髪が伸びるのはメルと同じだったが、灰色の髪色が対照的だった。
「この子は私がやる! ゴーレムとあいつはお願い!」
ララが反撃に出る。
半魔獣となった二人の戦いは、レオン達に手出しできるものではなかった。
「レオン」
“奴”が口を開く。
その声は慈愛にも、嘲笑にも思えた。
「もしかして知らなかったのか?」
知らなかった。
だけど、メルが変身した瞬間にわかってしまった。
いや、本当はもっと、ずっと前からわかっていたのかもしれない。
もしかしたら、生まれ落ちたその時から、ずっと。
「シンピから聞いていないのか……仕方がない。私が教えてやろう」
――やめろ
「レオン・ハルベルト。お前には……私たち一族には魔獣の血が流れている」
レオンが膝から崩れ落ちる。
「噓だ……」
「『座標転移』!」
見ていられず、駆けだしたリンネが転移によって抜刀した剣で“奴”に斬りかかる。
しかしそれはあっけなく防がれた。
「『楯』」
“奴”が発動したのは小型の防御魔法陣。
それによってリンネの剣は防がれるどころか折れてしまった。
「……! あんたこそあんまり舐めないでよね……『座標転移』!」
リンネが魔法を唱えると、その手にあった折れた剣は盾の内側、“奴”の眼前に転移した。
「なにっ!?」
間一髪のところで躱すが、“奴”の頬には決して浅くない傷がついた。
“奴”が己の頬を触り、その手についた血を見やる。
その眼には怒りの色が浮かんでいた。
「こいつ……ッ!」
“奴”が報復せんと腕を振り上げる。
その一撃を阻害したのは、小さな拳だった。
「ビーディー……!」
“奴”の前に立ちはだかったビーディーの瞳孔は開いていて、完全に激昂していた。
「おいおい……あたしを無視してんじゃねぇよ。なぁウルフ!!!」




