“元”特級冒険者
ティガー。
その名前に、レオンは聞き覚えがあった。
『お前の父親は、魔獣王ティガー・ハルベルトだ』
レオンの脳裏に、いつの日かのシンピの声が響く。
――そうだ、魔獣王の名は
「ティガー・ハルベルト……」
「ああ。そのティガーだ。お前、あいつの息子なのか?」
「……はい。俺はティガーの息子、レオン・ハルベルトです」
答えると、ビーディーは力が抜けたように座り込んだ。
大きく息を吐いて、懐から取り出した葉巻を口に加える。
「やっぱそうか……くそっ! シンピの奴、あたしに黙ってやがったな」
火を点けると、今度は煙を伴った息を吐いて、レオンを再びまじまじと眺め始めた。
「にしてもあいつの息子がもうこんなに大きくなってんのか……あたしももう若くねぇな……」
「ちょ、ちょっと待ってください。ビーディーさんは魔獣王の知り合いなんですか?」
「ビーディーでいい。あと敬語も使うな。あんま好きじゃねぇから」
そう言うと、ビーディーはまた葉巻に口をつける。
その姿は、幼い見た目に似合わず、なんとも色っぽかった。
「……知り合いもなにも、仲間だよ。ティガーにシンピ、ミラ。それとあたしでパーティーを組んでた」
「え?」
驚きの発言に、レオンとリンネは言葉を失う。
ララは内容がわかっているのかわかっていないのか「へ~」と流していた。
「つーかシンピから聞いてなかったのか。あいつも必要なこと以外あんま言わねぇっていうか、遊びがねぇっていうか……変わってねぇなぁ」
ビーディーは懐かしむように煙を吹かす。
彼女も彼女でだいぶ極端な性格をしているとレオンは思ったが言わないでおくことにした。
魔獣王の元パーティーメンバーというのは全員どこかおかしいのかもしれない。
「あ、あの、それならビーディーさんも特級冒険者なんですか?」
リンネが当然の疑問を投げかける。
するとビーディーは少し渋い顔をした。
「ああ。まぁ……“元”特級ではあるかな」
「……? なんで今は違うの?」
恐れを知らないララが尋ねると、ビーディーの表情はさらに曇った。
「いやぁその……あたしも若かったていうか、酔っぱらっててさぁ……暴れちゃったんだよな、本部のギルドで……」
葉巻の先から、悲しげに煙がモクモクと上がる。
「それで一級になっちゃって……なんかもういいかなぁって思って……今に至るというか……」
そう語るビーディーの声に覇気はなく。
レオン達はなんて声をかけたらいいのか分からなかった。
ただみんな、この人は駄目な大人なんだなぁ、と思った。
「ってかあたしのことはどうでもいいんだよ! んなことより交換条件! どうするか決めろっての!」
急に吠えたビーディーにより、レオン達の思考はあまり考えたくなかった条件のことに引き戻される。
「……ったく。こんだけ時間やったのになにも思いついてねぇって顔だな」
呆れ顔のビーディーがわざとらしくやれやれと手を広げて見せる。
それから、彼女は「まあ」と前置きしてレオンを指差した。
「レオン、お前が抱いてくれるってんなら考えてやってもいいけどなぁ?」




