人なのか、獣なのか
真っ暗な洞窟の中、レオンは壁伝いに奥へと進んでいた。
すると、闇に覆われていた視界が微かな灯りを捉える。
近づいてみると、古びたランタンが幾つか吊るされており、奥への道筋を怪しく照らしていた。
「……間違いなさそうだな」
灯りの導きに従い、さらに奥へと進んでいく。
そのまましばらくすると、広い空間に出た。
空間の中心では大型のアンデッドが魔法陣を描いている最中で、その脇には数人の女性が倒れていた。
「あれがシュンランの仲間か……」
これまで戦ってきたアンデッドとは様子が違うことから、中心にいる大型がボスとみて恐らく間違いないだろう。
ただ、そいつ以外にも周囲には多くのアンデッドが待機している。
不意打ちを狙うのは恐らく難しい。
「というか、なんで魔獣が魔法陣の書き方なんか知ってんだ……?」
通常、魔獣の知性は低い。
ましてや、魔術の知識に精通している魔獣なんてレオンは聞いたことがなかった。
「大型のアンデッドって、たしかリンネがなんか言ってたな……たしか、リッチだったか」
しかしリッチは知能が優れているという話は聞いていない。
幾つか魔法を使うとは聞いていたが、魔法陣を用いる魔術は豊富な魔術知識がないと描くことはできないはずだ。
「まあなんにしても殺すだけか……」
「はたして貴様に殺せるかな?」
レオンはの呟きに呼応して、低い地鳴りのような声が響く。
それは間違いなく、レオン達の暮らす連邦の言語だった。
「なっ……!」
リッチがレオンの方を振り向く。
古びた頭骨のみで形づくられた顔に表情などというべきものはなく、瞳の存在するべき位置には底なしの深淵があった。
「この女どもを助けに来たのか? 無駄なことを……」
「……なんで話せるんだ、お前」
「何故、か。愚問だな。それは私が人間の魔術師だからだ。人々はネクロマンサーと呼んでいたかな。今は魔獣の姿となっているが、儀式さえ成功すれば再び人間の身体を手に入れることができる」
リッチが口にしたネクロマンサーという言葉に、レオンは覚えがある。
ミスト神父が寝物語に話してくれた御伽噺に登場する、恐ろしい魔術師。
冒涜的な魔術を使う彼らを、人々はネクロマンサーと呼び恐れていた。
――まさか実在してたとはな
そんなレオンの驚きなどはつゆ知らず。
リッチは儀式の話を続ける。
「しかしその儀式というものが中々難しくてな……失敗すれば材料の人間がただのアンデッドになってしまう。まあ、思いのままに操れる駒ができるというのは、それはそれでありがたいがな」
「その儀式ってやつのために、この人らを攫ったのか……?」
「ああ。わが兄によって封印されてから、長らく儀式の研究は止まっていた……だが、この女どもが、あの忌々しい短剣を抜いて私を解き放ってくれた! おまけに乗り移るための体まで提供してくれるとは……実に滑稽極まりない!」
「聞いたこと以外まで……よく喋る魔獣だな。何百年ぶりにか知らねえけど、他人と話せたのがそんなに嬉しかったか?」
その一言で、周りの空気が凍りつく。
ネクロマンサーの魔法か魔獣としての特性なのかは分からないが、このリッチには温度を変化させる力があるようだ。
「貴様は話を聞いていなかったのか? 私は人間だ。あのような醜い獣と一緒にするなぁ!!」
リッチの叫びとともに、周囲のアンデッドどもがレオンに群がってくる。
「同じだよ。今のお前は人間じゃない……殺すべき魔獣だ」
「『狂戦士化』!」




