さよならじゃない
リディアの遺体を届けた日、ベルは泣いていた。
「許せない」と言っていた。
カモメ亭の主人は、ただ「ありがとう」とシンピ達に繰り返し言っていた。
「せめて帰ってきてよかった」と、まるで自分に言い聞かせているようだった。
リディアの子だとララを紹介すると、やっぱり二人とも泣いた。
後日、ノシュキルの町でリディアの葬儀が行われた。
「ねえ、ママはどこに行くの」
ララが隣のレオンに訊ねる。
獄狼との戦闘の後、彼女の変身こそ解けたものの、あの幼い雰囲気に戻ることはなかった。
「どこに行くんだろうな。俺にもわかんないよ。天国に行くのか、地獄に行くのか……それとも、どこにも行けないのか」
「……そっか」
それだけ言って二人は黙り込む。
町民の泣く声、憐れむ声が周囲を取り囲んだ。
「ララ。ママにお別れ、言いに行こっか」
近くにいたリンネが、ララに手を差し伸べる。
「うん」
ララはその手を取って、一歩前に歩みを進め、そして振り返った。
「レオンはさ、ママを悲しませたやつを殺しにいくんだよね?」
「……ああ」
「そっか」
暗かったララの表情に、少しだけ生気が戻る。
次に出る言葉を、レオンは待っていた。
「それならさ、私も連れていってよ」
「それは――」
「ララちゃん。それ、どういう意味か分かって言ってるの?」
レオンが答えるより先にリンネが口を挟む。
その声色は冷たく、ララの覚悟を問うていた。
「分かってる……リンネが言ってた『許せないから』って言葉の意味も、今なら」
そう言って、ララがニヤリと笑ってみせた。
「それに、二人よりも私の方が強いし?」
意外な反撃にレオンは少し驚いて、笑った。
リンネは呆れたようにため息をついていた。
「それを言われると痛いな……リンネ?」
「ほんと……この前までもっと可愛かったのに」
「えー、今も可愛いでしょ?」
「まったく……私たちと一緒にってことは、地獄に行くってことよ。本当にいいの?」
「……どこに行くかわかんないより、二人と地獄に行く方がずっといいよ」
そう言って笑うララの表情には、どこか悲しみの色が滲んでいた。
「わかった。帰ったら三人で師匠に話そう」
「ほんと? やったね!」
「そこまで言われたら仕方ないわね」
少しだけリンネも笑う。
三人は今、たしかな絆のようなものを感じていた。
「改めてよろしく、ララ」
「うん。それじゃ、そろそろママのとこ行ってくるね」
「ああ……いってこい」
「……ちゃんとさよならするのよ」
仲間の声を背に、ララは今度こそ母の眠る棺桶へと歩み寄る。
覗き込めば、生前となんら変わらない母の姿がそこにはあった。
「ママ……」
涙はもう出なかった。
きっともう枯れてしまったのだ。
されど悲しみは枯れることなく、胸を満たす。
最期にかけるべき言葉なんて、ララにはわからなかった。
でも――
「……さよならじゃ、さみしすぎるよね」
――だから今、私がママに言うべき言葉は
「いってきます……ママ」
第二章はここでおしまいです。
シンピとリディアがどんな関係だったのか、なんてお話もそのうち書きたいですね。
次話から第三章に入ります。




