大切な人のために
その頃、レオンは獄狼との戦闘を続けていた。
かぎ爪をいなし、短剣を弾かれ、両者一進一退の攻防だ。
ララ達はそれをそう遠くない場所から見ていた。
「しんぴ。わたし、れおんといっしょにたたかう」
瞳にまだ涙を溜めたままのララがすっかり掠れた声で言う。
「やめておいた方がいい。下手に手を出せばレオンの足手まといになりかねない」
「それでもこのままじゃ!」
「ああ……レオンが負けるだろうな」
そう。
一見互角に見える戦いだったが、レオンの方には徐々に疲労の色が出始めていた。
『狂戦士化』は戦いに意識を集中させる魔法であり、使用者本来の限界を超えることはできない。
そのため、一ヶ月間修行をこなしただけのレオンでは、どうしても獄狼に対して体力の面で劣ってしまっていた。
「しんぴはれおんをみごろしにするのか!?」
「……これはレオンとリンネの最終試験だ。私より先に助けに入るべきはあいつだ」
そう言うシンピの視線の先には、返り血を浴びたままのリンネが立っていた。
彼女は戦場に向かい一歩を踏み出す。
その時だった。
「ぐああっ!」
かぎ爪によって弾かれたレオンが三人の近くに飛ばされてきた。
「れおん! だいじょうぶか!?」
ララが駆け寄る。
離れて見ていた時には分からなかったが、レオンの身体はもう傷だらけだった。
「……ララ」
レオンの目に仲間の姿が映る。
既に『狂戦士化』は解けていた。
「わたしにたたかえってめいれいして! れおんがいってくれたらわたし、たたかえるとおもうから!」
「それは……できない」
レオンが目を伏せる。
「戦え」そう命令してしまえばレオンの〈魔獣王〉の力でララは戦うだろう。
しかし、それはきっとララの意志じゃない。
そう思ったから。
「なんで!? さいしゅーしけんだから!? そんなのわたしにかんけいない!」
レオンの頬に大粒の涙が落ちる。
眼前には泣き顔の、だけど強い意志を隠さないララがいた。
「ままはたいせつなひとのためにちからをつかえっていった! わたしは……たすけてくれたみんなのためにたたかいたいっ!」
「ララ」
背後から聞こえた声はシンピのものだった。
「……後悔しないか?」
「しないっ! ぜったいに!!」
「そうか……レオン、女性の頼みは無下にするものじゃない。違うか?」
「……そうかもな。ただ、俺がララに言うのは戦えなんて言葉じゃない」
そう言うと、ララは少し不思議そうな顔をした。
それは年相応の幼い表情で、レオンは少しだけ悲しい気持ちになった。
「……『勝て』。ララ!」
レオンの言葉に応え、ララの身体に変化が起こった。




