ノシュキルとシンピ
「その荷物、よければ持ちますよ」
カモメ亭に向かう道中、ベルの小さな背丈と不釣り合いな程の荷物が気になったレオンが声をかける。
「へ? ああいや、いいですよ~。これくらい持てますから」
「え、でも……」
レオンが少し食い下がろうとすると、シンピが口をはさんできた。
「ベル、カモメ亭に着いたらレオンと腕相撲をしてやってくれないか」
「なに言ってるんですか師匠」
レオンだって男だ。こんな小さな娘に負けるわけがない。
そう思ってレオンは呆れたようにシンピを咎める。
「いいから相手してもらえ。いいか? ベル」
「まあ、私はいいですけど……」
結論、レオンの完敗だった。
「どうして……」
プライドを粉々にされて落ち込むレオンが呟くと、シンピは焼き魚を食べる手を止めずに厨房を指さした。
その先にでは、一人のドワーフが大きな鍋を自由自在に操り、料理をしていた。
「あの人がベルの親父さんだ」
レオンの首がゆっくりとベルに向き直る。
「ドワーフ、だったんですか……」
「あはは……正確に言えばドワーフと人間のハーフですがね」
ドワーフとは、小柄で力が強いことで有名な亜人である。集中力が高い上に職人気質なものが多く、中でも鍛冶職に就くものが多い。
そのため、人間ばかりの町で育ったレオンはドワーフが料理人をやっているなど思いもしなかったし、亜人と人間のハーフなんて見たことがなかった。
「ハーフドワーフなのか……」
「この国にはベルみたいな種族が山ほどいる。見た目で判断するのはやめておいた方がいい」
「……そうですね。身に染みてわかりましたよ」
もしかしてシンピは、このことを教えたかったのだろうか。
そう思うと、今まで掴めなかったシンピのことがなんとなくわかってきたように思えた。
「シンピさんはこのノシュキルの町の救世主なんです」
シンピが席を外している時、ベルがそんな話をし始めた。
「東方の国からこの町に流れ着いたシンピさんは、冒険者となって何度も町を救ってくれました。国指定の特級冒険者としてウシク紛争にも向かわれたことがあるそうです」
「ウシク紛争ってあの……」
ウシク紛争は、十二年前に起こった連合国最悪の事件である。
連合国お抱えの特級冒険者十人が現地に向かい、その内七人が戦死したと聞いている。
レオンの父、魔獣王ティガーもウシク紛争で命を落としていた。
「生き残ったうちの一人だったのか……」
「まあ、私も父から伝え聞いただけなんですけどね! この町でシンピさんを尊敬してない人はいませんよ」
「そうか……」
その話の中で、レオンの頭には一つの疑問が生まれていた。
――あの人、何歳なんだ……?




