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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

パラレル主人公たちとリセットされない元一般生徒(モブ)

作者: 鳥路

結論から言おう。この世界はおかしい

別に倫理観がバグっているとかではない。世界はバグっているけれど

この世界において、近親婚や同性婚、ましてやそれらと関係を結ぶことも「あり得る」話

多重婚なんて現代では今日日聞かないが、この世界ではあり得る話

世間一般がおかしいと言おうが、この世界においてはあり得る話で法的に認められている話

そう。この世界において、おかしいのは生きている人物ではない

正確には・・・この世界を作り上げた創造主の頭がおかしいのだ

例えば・・・「あいつら」のように犠牲になった奴がこの世界には何人もいる


「おはよー!百合」

「おはようございます。清香。今日もいい天気ですね」


天真爛漫とした、どこにでもいそうな女子生徒「東清香あずまきよか

彼女が挨拶をしたのは、ごく普通の共学校には似つかない深窓の令嬢のような雰囲気の女子生徒「西園寺百合さいおんじゆり


「ギリギリセーフ!まだ遅刻じゃないよな!?な、北見!?」

「うるさいぞ。南原。まだ大丈夫だ」


教室に慌ただしく入ってきたクラスの中心人物「南原裕二みなみはらゆうじ

そして彼に声をかけられた物静かなクラス委員長「北見佳乃きたみよしの

南原が教室に現れたことで、今日も修羅が確定した

俺は彼らに気づかれぬよう溜息を吐く

もう一度言おう、この世界はおかしい

正しくは、この世界の創造主が・・・となるだろうけれど


この世界は、創造主の気まぐれで「五つのゲーム」の世界観が混ざり合っている

決して現実の話ではない。俺たちにとっては現実なのだが、ここはフィクションの世界だ

それを自覚している時点で、俺もまたこの世界のバグの一つなのかもしれないが・・・そこは気にしないで頂きたいものだ

むしろ、思考がバグってフィクションだと認識できるようになったおかげでこの世界の異常さを痛感できたのだ。喜ばしい話である

・・・俺の身の上話などどうでもいいか。ゲーム自体の話を先にしておこう

その為には、まず主人公の一人である「彼」から説明しよう


「おはよう、百合」


南原が東に声をかける

南原裕二は、女の子を攻略する所謂「ギャルゲー」の主人公である

元々、この世界は彼の為に作られた世界だ

学園恋愛アドベンチャーゲーム・・・それが、この世界の元々の設定

それに合わせて俺たちは作られた

北見は親友として、西園寺はサブキャラクターの一人として

そして俺は、モブとして

メインヒロインは彼の目の前にいる東清香・・・のはずなのだが


「おはよう、南風君。相変わらず馴れ馴れしいね。今私は百合と話してるの。今すぐ失せてくれないかな」


・・・こんな具合に、本来攻略されるヒロインのはずなのに主人公に対して暴言を放つ

南原の行動は、彼のゲーム内では好感度上昇の選択肢である

彼は何も間違った選択をしていない。むしろここまで暴言を吐かれる理由がわからない

もっと言えば、南原は東のルートに入ってもおかしくないほどの好感度を計上しているはずなのだ

しかし、一向にルートに入る気配がない

それもそうだろう

なんせ、東のゲーム内では南原とのルートは存在しない

東もまた別のゲームの主人公なのである

この時、南原から挨拶されるという行為は・・・東のゲーム内では不吉の象徴とされている


「百合!あっち行こうよ。邪魔なのが付いてくる!」

「言いすぎですよ、清香・・・」


東清香は女の子同士の恋愛をする所謂「百合ゲー」の主人公

野郎が背景にいただけでも、購入者からクレームが来るようなゲームの主人公に、なぜかかつて野郎に攻略されていたヒロインが主人公として抜擢されている

攻略できるヒロインは彼女の隣にいる西園寺百合

ここまでくればお察しだが、もちろん西園寺も別のゲームの主人公である

一応言っておくが、西園寺の好意は東ではなく、別の奴に向けられている


「南風君、ごめんなさいね「私の清香」が」

「お、おう・・・別にいいって。恋には障害がつきものだもんな」

「そうですね。私にも大きな壁がいますよ。丁度貴方のような」

「・・・西園寺、何をしている」

「・・・北見君」


西園寺百合は男を攻略する所謂「乙女ゲー」の主人公

南原のゲームから入った方からすれば、サブキャラクターの一人にスポットが当てられている!となるのだが・・・

東のゲームから入った方からすれば、なんで野郎を攻略してんだよ!?恋愛対象女じゃなかったのかよ!・・・となったらしい

攻略できるヒーローは西園寺と南原の間に割り込んだ北見佳乃

現在進行形で、ゴミを見るかのような視線で西園寺を睨みつける北見も例に外れなしだ


「南原、こんなのは放っておけばいい」

「ちょっ、何すんだよ。北見・・・!俺は!」

「・・・お前が女好きなのはわかっているが、俺は」

「・・・今なんて?」


北見佳乃はこれまた男を攻略する所謂「BLゲー」の主人公

引き出しの少なさに一登場人物モブに過ぎない俺もびっくりである

かつて乙女ゲーで攻略できていたヒーローは、まさかの同性愛者で・・・という乙女ゲーにあるまじき設定をお出しした結果、彼がメインのゲームが発売されたらしい

しかし、このゲーム。攻略対象が問題なのである

攻略できるヒーローは目の前にいる南原裕二

かつて、女の子大好き!と豪語していたギャルゲーの主人公をBLゲーに落としたのだ

スタッフは正気か?

嫌がる南原の腕を掴んでその場から立ち去ろうとするが、南原自身がそれを拒絶する


「北見、早くそいつ連れて行ってよ。百合と話せないじゃん」

「うるさいぞ、東。お前もその女ちゃんと捕まえておけよ。南原が傷つくだろうが」


それぞれ西園寺と南原を庇いながら、東と北見が睨みあう

同じ同性愛者として、互いの恋の成就を目指そうとする協力体制はこの二人にはない

むしろ、自分のお目当ての攻略対象をいじめる天敵なのである


全員が全員片思い。そしてゲームクリアへと至れないという奇妙な四角関係

こんな歪な関係が出来上がってしまった原因は創造主の引き出しの少なさである

舞台設定はここ以外考えられず、登場人物だってこれ以上は作れなかった

どんなゲームを作っても、同じ舞台に同じ登場人物

情報をお出しするたびにネットでは炎上を繰り返し、最終的にゲーム会社は倒産した


発売された四つのゲームと開発途中のゲームに関わるデータを創造主がデリートしたことは覚えている

しかし、それからこの世界は異常を生み出した

要するに、世界からデリートされても、完全に消えることはなかったのだ

ただ、分かれていた上に出来上がっていた「四つのパラレルワールド」と「未完成のパラレルワールド」が合体して異常を生み出し、こんなことになってしまったが、俺たちは生きている


俺たちは自我を持ち、永遠の高校生としてこのバグだらけの世界で暮らし続けている

この先に自分たちが思い描く未来がなく、たとえルートを終わらせたって、エンドロールのその先に行けないことも理解している

ただただ、終わりのない世界を生きるだけの存在として、毎日を惰性に過ごす

唯一の救いは、俺以外の登場人物は・・・高校卒業と同時に記憶がリセットされることだろうか

目が覚めたら再び入学式になるが、彼らは何一つ覚えておらず再び新生活に胸を躍らせられるのだ

それだけが、俺の救いだろう


言い争いをしていた四人を見ながら、色々な事を考えていた

すると、四人の視線が俺に一斉に向いた

彼らは急ぎ足で俺の元へやってきて、前のめりでそれぞれの意見を述べた


「あの、隆志君はどう思いますか?」と西園寺

「西園寺が南原に冷たい態度をとるのが悪いと思わないか、隆志」と北見

「北見も人の事言えないじゃん」と東

「まあまあ、二人とも落ち着けって」と南原

「・・・はあ。全く、お前らはもう少し仲良くできないのかよ」と俺「中山隆志なかやまたかし


ああ、そうそう。一つだけ説明するのを忘れていたことがある

俺は、確かにかつてはモブだった

けれど、俺もまた・・・この世界の主人公の一人である。自分で言うのもなんだし、日の目は見なかったけれど

開発途中のゲーム。それは今までシナリオゲームを作っていたゲーム会社が唐突にやるような種類ではないゲームだった


俺が主人公になる予定だったゲームはRPG

異次元に飛ばされた学校を舞台にして、そこに巣食う怪物を倒すというごく普通のRPG

俺は、そのゲーム内の主人公兼プレイアブルキャラクターの一人

そして、お察しの通り・・・

目の前にいる四人もまた、プレイアブルキャラクターとして設定されていた存在である


そして、開発途中のゲームはもう一点ほど恐ろしい話があった

簡単である。元々、誰かを攻略するようなゲームを作っていたんだ。想定内だろう

プレイアブルキャラクター全員に設定されている個別シナリオを終えたら、そのキャラと恋愛エンドに行けるのだ

東、西園寺・・・もちろん、北見や南原も例外ではない


その為だろうか

俺は、この世界に生きている登場人物からの好感度は高めだ

それに加えて、リセットされている高校生活の記憶が唯一失われない設定なのはそれが影響だろう

他の四人と違って、エンドに入れば終わりのゲームではなく、俺はエンドが終わっても先があるゲームの主人公だから


「どうしたの、隆志?」

「なんでもないよ。清香。少し考え事をしていただけなんだ。四人がもう少し仲良くできる方法」


「隆志、俺でよければ相談に乗ろうか?」

「ありがとう、佳乃。でも大丈夫。俺の中で答えは出たからさ」


「それなら安心だな。でも困ったことがあればいつでも頼れよ。隆志」

「もちろん。すぐにでも頼らせてもらうよ、裕二」


「わ、私もぜひ頼ってくださいね。隆志君」

「うん。百合にもたくさんお手伝いしてもらうね」


心配そうにしている四人それぞれとの会話に返答を返す

先程とは大違いの、ギスギスしていない普通の会話

それは、四人の俺に対する好感度が高めだということを示していた

ついでに言うと、会話の中に俺が混ざることでなぜか互いに関する印象も緩和されるらしい

彼らは互いが互いの敵ではなく、ごく普通の、同じ思い人がいる友人になるらしい

そんなの、普通はあり得ないが・・・これが俺たちの世界の普通なのである


もう一度言っておく

この世界はおかしい

けれど、これが・・・俺たちの生きなければいけない世界

決められた世界しか存在しなくて、決められた人間しかいなくて

その人間との関係は、好感度とかいう数値で決まる世界

そして何よりも、面白おかしいこの世界こそ

俺たちが生きる世界なのである

さて、今回は彼らとどんな高校生活を過ごそうか―――――――――――

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