王都への条件③
バトルシーンの臨場感、上手くかけてるでしょうか?
どうぞ、今回もお楽しみ下さいませ!
―特訓二日目―
目が覚めると、俺はギルド<蛍火>の医務室にいた。
少し空いた窓からは心地よい風がそよぎ、その傍らにティアーナがすぅ、と寝息をたてて眠っている。
まだ少しぼうっとする頭を覚ますため、体を起こして立ち上がる。
「うっ、っと」
うまく体に力が入らず、前のめりになって壁に手を突く形となった。
「んん……ヴェルト、起きた……の…………って、ええーっ!!?」
ティアーナの顔が近い。すぐ横には逃げ道を塞ぐように俺の手が壁に着いている。
「すまない、ティア。ちょっとフラついちまって。今よけるか、ら?」
壁から手を放した俺は、更にバランスを崩し、ティアーナに抱き着く形になった。
―うーん、良い匂いだな。眠気をさらに刺激されそうだ……。
それに、なんというか、そう。柔らかいな。これはダメになりそうだ。
「えっ、ちょっと、ヴェルト?ねぇ!」
既に意識が飛びかけている俺の身体を懸命に揺さぶる。それさえも揺り籠のように感じ、俺は完全に眠りの世界に戻されるのだった。
「まあ許してやってくれ、ティアーナ。今のそいつは、人生で使ったことの無い魔力を大量に放出して、身体が追い付いていないのだ」
入口からグリム団長が入ってきた。
「おはようございます、グリム団長。あの、ええと……」
ティアーナが心配そうな目で見つめる。
「ん?ああ、このことは内密に、かな?ふふふ。私が部下の恋路を邪魔する訳がないだろう?」
ティアーナは顔を真っ赤にして
「ちちっ、違います!そうではなくて、その、今日の修業は、その……」
「うむ。経過を見て、と思ってはいたが、さすがにあの魔力消費量だ。もしかしたら夜までは目を覚まさないかもしれんな。それに……」
僅かに微笑んで、ヴェルトを見つめる。
「初日で剣の声を聞くとは、俺も想定していなかったものでな。おかげで少し猶予は出来ている」
そう聞いて、ティアーナは少し安堵し、ヴェルトの髪を優しく撫でる。
「おやすみ、ヴェルトくん」
声を向けられた先で、少し間抜けで、幸せそうな顔で眠っていた。
―夜、執務室―
「紛れもなく、あれはお前自身の魔力であり、お前自身の身体の記憶で使った技だ」
グリムが真面目な顔でそう告げた。
今でもまだ信じられないが、俺が魔剣に支配される前の記憶はどうやら本物であったらしい。
<屠ル者>を俺が放ち、団長もまた<屠ル者>で相殺。そのまま俺は魔力の解放に身体がついていかず、意識を飛ばしたのだという。
「だが、声が聞こえたのならば、あとは簡単だ。魔剣を使いこなせばいいだけだ」
「ちょっと待ってくれ!あとは簡単、だぁ?俺は意識ぶっ飛ばしちまったんだぞ?なんかこう、コツみたいなものはないのか?」
ふむ。と、少し考える団長。そして
「魔剣の声が聞こえたとき、お前に何を言っていた?」
あの時の言葉が蘇る。
―『でていけ!今すぐに!』
『断る!どうしてもというのなら』―
「力ずくで従えてみせろ、って」
フッ、と笑って団長が答えた。
「ならば、それがそのまま答えだ。簡単だろう?」
「待て待て待て!さっきも言ったが、意識飛ばされるほどの魔力だろう?そんなもの、簡単なわけが……」
「忘れたのか?ヴェルト」
急に厳しい顔付きになる団長に、俺の身体が強張る。
「言ったはずだ。しごきまくるから、覚悟を決めておけ、とな。覚悟がないなら、明日からはもう来なくていい」
そう言い残し、部屋を後にする。
一人きりになった部屋に静寂が訪れる。大して広くない部屋が、急に広がって見えた。
(クソッ!どうすりゃいいんだよ!あんな化け物、どうやって従えろって? 簡単だあ?説明だけそれこそ簡単にしやがって!くそ、クソッ!)
そうして、時間だけが過ぎていく。
だが考える時間が、やり場のない怒りに沸騰していた脳に冷静さを取り戻してくれた。
―帰る前に、修行場に行ってみるか。
火照った体も、夜の風が冷ましてくれるような気がした。
修行場についた俺は、Cランクの名もなき剣の前に立っていた。
「なあ、俺はお前を力ずくで従えることができるのか?俺はどうすればいいんだ?教えてくれよ」
もちろん、魔剣は何も答えない。
「俺の師匠がさ、お前を従えるのは簡単だって言い放ったんだ。でも、俺にはそうは思えない」
魔剣はただただ、その場に突き刺さっている。
「だけど、あの人が俺に嘘をつくとも思えないんだ。だからさ、とりあえず、もう一度だけチャンスをくれよ」
そう言って、ヴェルトは魔剣の柄を握りしめ、意識を集中させた。
『ククク、何度でも挑むが良い。おぬしの魔力は別格だ。また味わわせてもらおうぞ』
声が聞こえたと同時に、身体から大量の魔力が吸い上げられていく。
「ぐああっ!ぎいぃィィ……っ!」
ものの数秒で、俺の意識が飛びそうになる。だが、ここで倒れれば昨日と同じだと、気合だけで踏みとどまる。
―せめて何かを掴んでから落ちてやる!
薄れゆく意識の中で、俺は先程の団長とのやりとりを思い出していた。
『言ったはずだ。しごきまくるから、覚悟を決めておけ、とな。覚悟がないなら、明日からはもう来なくていい』
『ならば、それがそのまま答えだ。簡単だろう?』
「はは、は、ま、全くもって、簡単じゃ…………ねえ、よ!ぐうぅ……あぐ!」
『紛れもなく、あれはお前自身の魔力であり、お前自身の身体の記憶で使った技だ』
『力ずくで従えてみせろ!』
「っ!!!」
その瞬間、一際大きな炎が剣の周りを包み込む。
「う、ぐっ!おおおおおおおお!!!」
今までどれだけ魔力を集中させても魔法を使う事の出来なかった俺が、魔法のコントロールなどできるわけもない。ならば……!
「ならばぁっ!!ありったけをっっ!!!くれてやるああああああぁ!!!!」
空に剣を両の手で掲げ、巨大な炎の竜巻が天を穿つ。
どこまでも舞い上がる炎の竜巻が、次の瞬間、空間を割った。
青年が倒れている。その傍らには魔剣が星明りに照らされて地面に突き刺さっていた。
「やれやれ。本当に信じられない魔力量だよ。鳥籠の結界をいとも簡単に壊してくれちゃって」
男が青年の前に立ち、Cランクの魔剣を引き抜く。
「それで、彼はどうだった?レーヴァテイン」
握られた剣に炎が宿る。
『うむ、さすがにとんでもない力だ。あの魔力量と魔力の味が物語っている』
男は満足そうに笑みを浮かべ、闇に消えて行った。
―特訓五日目―
あの後、俺は丸二日の間眠っていた。
そして俺はどうやら、団長に一杯喰わされたらしい。
Cランクだと説明を受けた剣が、実はAランクであったのだと、目覚めてすぐに告げられた。
そして、どうやらそれは事実なようで、残る二つのBランクの魔剣は、驚く程にあっさりと従える事ができた。
とは言え、俺はまだ魔力の制御がまるで出来ていないし、魔剣の魔法の使い方の説明を受けたが、正直ちんぷんかんぷんだ。
魔法の形も、魔力の制御も体で覚えろ、との事だ。
「なあ、グリム団長。試してみたい技ができたんだけどみてくれるか?」
「ほう。オリジナルの技、という事か?」
興味を示して、俺を見る。
「うーん、多分。この魔剣が風属性だったからさ、さっきちょっと試しにやってみたんだけど、結構使い勝手が良くってさ」
俺は自信満々に言葉を返す。
「いいだろう、やってみろ」
団長の周りに魔力抵抗が張り巡らされる。
「よしっ!いくぜえっ」
俺は剣の切っ先に空気の刃をイメージする。
魔剣がイメージを感じ取るかのように、切っ先に薄い魔力を生成する。
「飛んでけえぇ!裂空斬!」
二回、三回と剣を縦に、横に振ると、空気の刃が飛ばされた。
二発で魔力抵抗が破壊され、残りの一発を剣で往なす。
「っ!なっ!?」
その瞬間、俺は団長の懐に潜り込んでいた。
「へへっ、どうだった?」
「これは……。フフ、素直に驚いた。どういう理屈だい?」
目を見開いて驚く団長に、俺は若干得意げに説明した。
「裂空斬は空気の刃を飛ばす技だが、それとは別に、一時的に空間を切る事が出来るんだ」
「おいおい、簡単に言ってくれるが、そんな芸当ができる奴など、そうそう居ないぞ」
その言葉を聞いて、俺は誇らしくなった。あの団長が認めてくれているのだ。
「まあ、正確には『空間を歪ませている』って言った方がいいのかな。そして、歪んだ空間が正しく戻ろうとしているその瞬間だけ、空間の裏側は映らないんだ」
「っ!疑似的な蜃気楼を作りだしたという訳か……。とんでもない発想をする奴だな、お前は」
「そうだろ?ただ、この技の弱点は、裂空斬を飛ばした軌道にしか蜃気楼は発生しないって事と、歪んだ空間に触れただけで、空気の刃でズタボロにされるって事だな。横に躱されりゃ、俺の姿は丸見えだから、タイミングが重要だ。しかも直っていく空間に合わせて同時に移動しなければならない」
「なるほど。弱点もしっかりと見えている訳か。大したもんだよ。これで、決まりだな」
団長が俺の目をしっかりと見据えて言った。
「ヴェルト・ダンツァー。お前の王都シスマーニへの任務同行を許可する!残りの二日間で、出来るだけ魔力の制御を身に付けろ。俺とお前で実戦だ。死に物狂いでかかってこい!」
次回予告
「ヴェルトです!二回連続で次回予告で殺されるとは思わなかったよ。このとーり、なんとかいきてますよー!」
『次回、魔剣には負けんわ!』
…サーセンしたぁ!