王都への条件②
続きです~
楽しんでいってください!
-参-
辺りは静まり返っていた。
そんな中、俺だけが滾っている。
-弐-
全てが止まっているような感覚。
神経が研ぎ澄まされている。
-壱-
自然と笑みがこぼれ出る。
緊張感と恐怖心が混ざり合う。
-零-
前だけを見据え、全速力で走りだす。
グリム団長の左足が地面に踏み込まれた。
(まだだ!まだ引きつける!)
団長の右手が動く。
(ここでっ!速度を殺す!)
キィィィン、と高い音が鳴り響いた。
間合いのギリギリまで引きつけ、ほぼ直角に右に曲がり、一撃目を躱す。先程まで俺のいた場所が、電流を帯びて焦げていた。
すかさずニ撃目が飛んでくる。ここから先は未知の領域だ。
本来切り払いの後、次の構えまでに多少のスキが発生するのだが、独特の足運びと、流れるような剣捌きで、スキを消している。
団長は身体を回転させるように次の攻撃に繋げる。
「くっ!!」
後ろに飛び退き、団長の高速の突きを躱すが、二発服をかすめる。
「ぐあぁっ!」
かすめただけで電流が身体を駆け巡る。
床に膝を付き体制を立て直そうとするも、電撃で左膝がガクガクと笑っている。
団長はすかさず間合いに詰めてくる。
「シィッ!」
団長は剣を斜め上から振り下ろした。
片足ではとても躱しきれない。
「うおおっ!」
意を決して、真っ直ぐ前に飛び込んだ。
バチィ!バチバチッ!
激しい電流音が響き、木の焦げた臭いが漂った。
「ほう、なかなかどうして。成長したな、ヴェルト」
「う……くぅ。もう、歩く力も残ってねぇよ……」
グリム団長の懐に入り込み、拳で一撃だけ、報いる事ができた。
-執務室-
「いててて、まだ痺れてやがる」
左膝にまだ僅かに電流が残っている。
「はははっ、まあそう邪険にするな。コリには良く効くのさ」
団長が楽しそうに笑う。
「それに、ついに見切ったな。なんというか、俺も嬉しいぞ!」
「……十回に七回はまともに喰らってるだろーよ。見切った内には入らんさ」
若干、不貞腐れながら。それでも、内心ではとびきり喜んだ。今夜のビーラは美味い。絶対に美味い。
「それで、何か土産でも持ってきてくれたのか?例えばその、でかい箱の中で眠っている魔剣とか」
「ああ、その話よりも先に伝えておく事が――」
俺はアルゴさん達の護衛中に襲ってきた野盗と、率いていた蘭と名乗る女について語った。
「ふむ。同調読心を使う野盗を率いた女、それも、魔力の波長を合わせずに、か。厄介なもんだ」
「はい。おまけに魔力も体術も相当のレベルだった。正直、生きてるのが不思議なくらいです」
素直にそう告げる。
普段はフランクに接してはいるが、仕事の話の時は俺も弁えて言葉を発する。
「それから、魔力隠匿のピアスを二つ付けた状態の俺を見て、<とてつもない魔力を持っているが、魔法を使えない>という事も見抜かれていました」
団長の眉が僅かに動く。
「それさえも見抜いたというのか?ピアスの効果は見抜けるだろうが、魔法が使えない事まで?」
「深層をも覗くレベルの同調読心なんて、聞いた事も無いので、背筋が凍る思いでしたよ」
団長は深く考えるように、口元に手を運ぶ。
「わかった。俺の部隊で見回りを強化しておこう。それほどの手練れならば、放っては置けない」
俺は深く頷き
「よろしく頼みます。それから、この箱ですが――」
アルゴさんからの依頼の説明と、闘技大会について話をする。
「なるほど。経緯は分かった。結論から言うと、許可できない」
その言葉に俺は、少なからず動揺した。
「っ!どうしてです?勝手に受けてきてしまったからですか?」
「いや、そうではない。単純に先程の話しを考えての判断だ。いいか?蘭という女の目的がはっきりしていない。一緒に運んでいた魔剣に興味があったのならば合点がいくが、聞いている限り、お前を狙ったとも取れる」
それは考えていた。
事実、蘭は魔剣には目もくれず、ハッキリと『君に興味がある』と言い放った。
「じゃあ、依頼はどうするんです?今からおめおめと『許可が下りませんでした』って説明しに戻るんですか?」
半ば興奮気味に言葉を発する。
「ふう。少し落ち着けヴェルト。依頼は、俺とティアーナでこなす。期限はいつまでだ?」
「……一ヶ月後です」
俯き、息を吐き出し、ゆっくりと答える。それを聞いて団長がニヤリと笑う。
「よし。俺に一週間預けろ。徹底的に鍛え上げてやる。それまでに俺が認めるレベルになれば、お前を連れて行く」
願ってもいない提案に俺は嬉々として顔を上げた。
「本当ですか!?願ってもない!よろしくお願いします」
「よし、明日からしごきまくってやる。覚悟をしっかりと決めておくんだな」
そう言って団長は執務室を後にした。
(やっと……やっと団長に認められたんだ。絶対に強くなってやる!よし!よし!)
勢いよく立ち上がると、左膝にビリッと電流が走り、俺は「はうっ」と情けない声を上げた。
その後、すぐにティアーナから思念通知が届き、合流した所で特訓の話を説明した。
流石に疲れが色濃く出ていたのか、心配するティアーナだったが、彼女が施してくれた<促進される自然治癒>によって徐々にダメージが抜けていくのを感じた。
「ありがとうティア。おかげで明日はダメージを残さずに特訓に挑めそうだ!」
「ふふ、どういたしまして。でも、無理はしちゃだめよ?」
わかった、と返事をして、今日は解散することにした。
―特訓初日―
俺は地面に突き刺さった三本の剣に向かって意識を集中させている。
『まずは剣の声を聞け』と団長に言われ、こうして向き合っている訳だが……。
ちなみに三本の剣はそれぞれ、Cランク、B-ランク、Bランクの無名の魔剣らしい。
確かにそれぞれから魔力を感じ、ランクに応じて魔力量も多いようだ。
「なあ、団長。全く聞こえないんだが?」
集中力が切れ、団長に愚痴をこぼす。が、団長は例の『素振り』の型に入っている。既に2時間はあの構えのままだ。動いていないのに汗が流れている。
「本当にこんなんで、『声』が聞こえるのかねえ」
そう言いながら、Cランクの魔剣を引き抜き、再び意識を集中させる。
―そうだ、せっかくなら団長と同じように集中してみるか。
そう思いつき、団長の十メートルほど正面に立ち、同じ構えを取り、目を瞑る。
遠くで水の流れる音が聞こえる。すぐそこの木が、風に揺られてざわつく。
鳥の羽ばたき。草の匂い。馴れない構えで握られた剣の重さ。
その全てが一体になっていく感覚。どことなく心地よい。
その時だった。
『ほう、これは久しい魔力だな』
確かに聞こえたその声は、淡々と、だが威圧感のある声だった。
『どれ、おぬしの力がどんなものか、見定めさせてもらおうぞ。』
剣の魔力が膨れ上がり、俺の中にどんどん入ってくる。
「う、お、や、ヤメ……おおぉ、あぁっ!」
抵抗できずに容赦無く入り込んでくる魔力。
身体が全力で拒否反応を出しているのが分かる。
激しい頭痛に見舞われ、血管が浮き出ている。
歯や唇を食いしばる口元は、泡を吹き、血と混ざり合う。
『クク、久しぶりの解放だ』
俺の脳内で剣が語る。
いつか団長が言っていた『支配されるな』というのはこれの事だろう。
「でていけ!今すぐに!」
『断る!どうしてもというのなら』
俺の身体は、団長に向けて剣を構える。
『力ずくで従えてみせろ!』
その言葉と同時に、今自分がとっている構えに気が付く。
秘奥剣壱ノ型<屠ル者>を俺の身体で使おうとしているのだ!
それも、魔法剣として。
俺は魔法を使えない。それがなぜ、俺の身体はあの剣に炎の竜巻を付与しているのだ!?
次回予告
「こんにちは。ティアーナです。前回いきなり始めた次回予告シリーズで、思いっきり嘘予告されたよね?私、嘘つく人は嫌いです!」
『次回、ヴェルトは二度死ぬ』