王都への条件①
お待たせいたしました。
続きをどうぞ!
「では、ヴェルトさん、ティアーナさん、よろしくお願いします!」
アルゴさんとフィーはガルガンディ唯一のギルド<千刃>まで見送りに来てくれた。
アルゴさんから大きな箱を受取り、握手を交わす。
「ヴェルトさん、ティアーナさん、戻ってきたらシスマーニの話を聞かせてね!」
フィーが無邪気に笑う。最初のころよりも大分、懐いてくれたと思う。
「オーケーだ!じゃあ、ホームパーティーの準備をして待っててくれ!」
「ふふっお土産も、買ってくるから、楽しみに待っててね」
俺は親指をグッと立てて、ティアーナは優しくフィーの頭を撫でる。
昨日アルゴさんから聞いた話をティアーナに話すと、二つ返事で了承してくれた。
ギルドへの正式な依頼とするよりは、教会から直接アプローチを掛けた方が手続きが省ける為、時間もかからない、と提案までしてくるあたり、意外とノリノリである。
「アルゴさん、本当に闘技大会が終わるまで滞在してもいいんですか?」
「構いませんよ。とても興味がある様子でしたし、もともと魔剣の件も、急ぐ訳ではなかったので、ゆっくりと楽しんできてください。ただ、大会への参加は難しいかと思います。参加締め切りは五日ほど前ですので……」
どうやら、あわよくば参加しようとしていたこともバレバレだったみたいだ。
「ははは、わかりました。では、行ってきます」
そうして俺たちは転移晶石へ向かう。
-転移晶石-
魔力を持つ者を対象とした転移装置。だが、使用にはいくつかの制限がある。
一.魔力を持たない人間や物資を転移させることは出来ない。
魔力の無い人間に魔力を流し、転移することは可能。
衣服や武器などは常に魔力の流れに触れている為、身に着けたまま転移可能。
時々、魔力の無い人間が裸の状態で転送されることがあるが、体に流された魔力が衣服に馴染む前に跳んでしまった為である。(転移先はしっかり遮断されており、貸し出し用の衣服も用意されている。)
二.目的地への距離は、魔力量により決定される。また、通行証にサインが記されている都市に限る。
これは単純だ。低い魔力では、長距離の転移が出来ない。
そして、ギルドを通して発行される通行証に特殊な魔力のサインが無い都市には移動ができない。
三.転移装置より大きな物は転移できない。
これが今回アルゴさんが護衛依頼を出さざるを得なかった最大の理由である。
転移装置はせいぜい大人三人分程の広さでしかなく、高さも3メートルもない。
「よし、それじゃあ一度フリクトローアに戻ろうか」
「そうね、司教様の紹介状も必要だから、出発は明日でいいかしら?」
「そうだな。俺もギルドに報告もしなければいけないし。ティアの準備ができたら、思念通知で知らせてくれ」
ティアーナは頷いて転移装置に入る。俺も剣の入った箱を持ち、続く。
振り返り、アルゴさんとフィーに手を振る。
正面の晶石に手を翳すと、機械音が目的地を読み上げ、二人が光に包まれる。
目を開けると、フリクトローアのギルド<蛍火>内の転移晶石に着いていた。
「ふぅ、相変わらずこの転移装置は苦手だよ。頭がクラクラする」
「仕方ないわ。こればかりは体質だもの」
転移開始から転移完了までのわずかな間、転移晶石から発せられる魔力の微粒子が、転移者の魔力と合わさる事で、たまに体が反発を覚える人がいる。魔素酔いと呼ばれ、自分の魔力が体内に循環し、転移晶石の魔力が抜けるまでの間、軽い眩暈や、光が強く感じられたり、軽い嘔吐感を感じる事もある。
「とりあえず、俺はこのまま団長と管理部に報告してくる」
「わかった。じゃあ行ってくる。報告よろしくね」
そうして一旦別れ、俺は団長を探していると、前から見知った顔が歩いてきた。
「おっ!戻ってたのか。どうだったよ?久々の故郷は」
軽く手を挙げて話しかけてきた青年――フィンラル・ゼルファルド――が隣に立つ。
「ああ、おかげさまで憂鬱半分、希望半分ってところかな」
意外な答えだったのか、フィンラルが少し目を見開く。
「へぇ。少し前進した、ってところかな?」
「うるせえよ。それより、団長はどこにいるか知っているか?」
「ああ、団長なら二階の修練所にいるぜ。とても声をかけられる雰囲気じゃあ、なかったけどな」
なるほど。素振りをしているのだろう。
グリム団長はこの国でも屈指の実力者だ。少なくともこのフリクトローアでは並ぶことすらできる者はいないだろう。そんな彼の素振りは、恐ろしい程の集中力で一振りに一時間はかける。
「わかった。ああ、それと、最近この辺りで窃盗団の情報とかあるか?」
「窃盗団?小者程度ならゴロゴロいるが」
「そっか。いや何でもないんだ。最近少し治安が悪くなってるって聞いたからな。情報ありがとう」
フィンラルに礼を言い残し、二階へ上がる。
修練上の前には既に、団長の剣技を観察する部下や、恋する乙女が目をハートにして立っていた。
「ちょっとごめんよ。緊急なんだ」
「あっ!ヴェルトさん。戻ってらしたんですね。ただ、今はちょっと団長は……」
わかってる、と言葉を制し、ヴェルトは荷物を置く。そして団長の前に立つ。
前に立っただけだというのに、緊張感に包まれる。うるさいと感じるほどにドクンドクンと脈打つ心臓。
眼を閉じて、息をありったけ吐き出し、ありったけ吸い込む。
「――フッ!」
俺は団長めがけて突進する。が、間合いの一歩手前で横に飛びのく。
さすがの集中力だ。俺が攻撃する意思を感じていないのだろう。剣先どころか、眉一つ動いていない。
俺は魔力隠匿のピアスを一つはずした。たったそれだけで、魔力量だけなら団長を遥かに凌ぐ量が流れ出る。
スッと、団長が構えを変える。
「あ、あれは……秘奥の構えじゃ……っ!」
「おいおいおい!全員部屋から出るんだ!怪我じゃ済まねえぞ!」
―秘奥剣壱ノ型<屠ル者>
属性魔法を剣に宿し攻撃する。説明するだけならシンプルだ。
一流と呼ばれる使い手は、魔力と武器の同調率は三十パーセント、超一流となると五十パーセントといったところだ。
しかし、目の前のグリム団長は違う。ただでさえ洗練された剣技に、魔力同調率は九十パーセントにも届く。
同調率は、簡単に言うと魔力効果を数値化したもので、高い程、真価を発揮する。
例えば、同調率三十パーセントの氷属性の魔法剣は、切りつけた箇所を凍らせる、としよう。
同調率が五十パーセントの場合それが全身に広がる。九十パーセントを超えるとなるとその辺り一片を凍らせることも可能となる。
二年前、俺は為す術もなくこの技を受けて半分死んだ。
回復後、猛特訓をした一年前は、躱すことに成功したが、すかさず飛んできた連撃に反応できずに、半分死んだ。
そして、現在――
―どこかの国のことわざにこんなものがあったな。
『三度目の正直』
『二度あることは三度ある』
(ははっ、どっちになることやら……勝負といくか!)
あれほどうるさかった心臓の音が聞こえない。代わりに聞こえてくるのは、自分と団長の呼吸音。
アドレナリンが脳内を巡っているのがわかる。俺の意識は今、目の前の団長と、自分にのみ注がれている。
高揚感が次々と押し寄せる。俺の脳が、心が叫んでいる。タマラナイ!
次回予告
「ヴェルトだぜ!団長もさんざん強キャラ感出してるけど、これで弱かったらマジウケるよな!」
『次回!ヴェルト、死す。』
「え?俺死ぬの?ねたばれええええええええええええええええ」